科研費に基づいたファイナンス研究
研究に基づいた本で、人気アナリストや株式評論家の、なんとなくこう思うことを書き記しているものではありません。
この本を著すにあたって、科学研究費補助金基盤研究(B)の研究補助を受けていることからも、きちんとした研究に基づいたものです。
本書では、統計学と行動ファイナンスの知見に基づき、株式投資を有利に行う方法をいくつか紹介していますが、紹介されているのは成果の一部であり、紹介程度にとどめているとのこと。詳細は発表論文等で参照されたい。
ビッグ・データ時代の科学のやり方は従来とは大きく異なるといいます。
従来の科学的方法論の順番は、「理論モデルを構築する」→「仮説を立てる」→「データで検証する」
ですが、
ビッグ・データ時代では、仮設など念頭にはない。そもそも何が仮説が分からないので、データから探そうという発想になります
こうしたアプローチは、データ中心アプローチと呼ばれます
経済学やファイナンスの領域では新しい手法なのかもしれません。
ですが、データから因果関係はわからずとも、強い相関関係を見出していくという研究方法は、医療の世界では昔から行われています。疫学です。疫学がどれだけ役に立つ手法であるのかは、数々の事例があります。
本書の研究は、こうした過去に得られた知見を展開して領域を広げていっているといってよいのかもしれません。
因果関係はわからずとも、強い相関関係を見つけます。まずは、この強い相関関係を見つけることによって、次に因果関係、理論の構築へと結び付けていくのです。これがこれからの研究手法のスタンダードになるのではないかと思います。
2014年1月25日第1版第1刷発行
株価を読む
株価には一定の価値が必ずある。株式を保有することによって得られる配当金の価値である。
ファイナンス理論としてはいろいろ細かい話があるが、株価というのは、会社が存続し、利益を生む限り、どこかの時点で支払われる配当金の予想額と等しい、ということになる。
では、なぜ株価は毎日変化するのか
それは、将来の配当額の予想値が、毎日変化するからである。
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株価をどうやって予測すればよいのか
人々が真実だと思っていることをあてることができれば、株価変動はある程度予測できる
何が真実か、ではなく、真実と思われていることは何か、を当てることが重要
ファイナンス研究はミクロ経済学の応用として生まれた
だが、経済学の合理的なアプローチでは説明できない事象が多すぎることが分かってきた
そういう人間的な視点でとらえなおして、解を出そうというのが、行動経済学であり、この分野が発展してきた。
行動ファイナンスは、行動経済学と同じように、人間行動と社会の関係を意識しながら、経済や市場の問題を考えていく学問
株価
株価の美味しい季節は1月~6月、よくない季節は7月から12月。
不思議なことに、この傾向は多くの株式市場で見られる現象である。
イギリスではSell in May and go awayと言われているが、だいたい同じである。イギリスでは17世紀からこの季節性があるといわれている。
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新聞記事からも、1月、4月、6月は楽観的な記事が多く、1月~6月までは楽観見通しの記事が多い傾向にあるが、7月~8月にかけて慎重な見通しの記事が増加し、9月~10月はとても慎重な見方が増える
こうしたパターンを人類はずーっと続けてきているのかもしれない
株価の季節性の中でもっともよく語られるのが「株式市場の1月効果」で、1月の株価収益率がほかの月に比較して高いという不思議現象である。一般的なアメリカのファイナンスの教科書に載っているほど有名な現象。
人間には損失回避傾向がある。
それは2002年にノーベル経済学賞を受賞したプロスペクト理論が証明している。
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この考え方は人間の合理性を前提とするミクロ経済学の期待効用理論を根底から否定するものとなった
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株式市場でいえば
損失を回避したい投資家は、保有して利益が出ている銘柄は早めに利益を確定しようとし、損失の出ている銘柄は実現損を確定したくないので、できるだけ保有し続ける
ニュースが出たからといって、すぐには株価は動いていなかったりする。
阪神大震災の際は、株価が本格的に下落し始めるのは、発生の翌週だった。
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つまり
どれだけ大きなニュースであっても、投資家がどう理解するのかという方向が定まらないうちは、それほど大きくは反応しない。
ある方向にコンセンサスが見出し始めた時点で、大きな変動につながる
証券アナリストによる格付け変更
格付け変更が行われると、変更アナウンスの数字前と比較すると、平均で4%上昇している。
だが、
この上昇はよくみると、格付け変更日の少し前から発生している
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証券アナリストの情報さえ収集すれば実現可能な戦略だが、実際にはリターンはわずか
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一般投資家が注目している銘柄を避ける戦略
このアイデアはカリフォルニア大学バークレー校のオディーン教授とデービス校のバーバー教授の論文で検証されている
結論は、注目度の高い銘柄ほど素人が買っており、プロの投資家は売り手に回っている
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それでは
「短期的投資家があまり参加していない目立たない銘柄を中心に狙う」
バースト
掲示板での投稿件数の推移が、直接株価に影響を与えているとは言えない
だが、
バーストが検知される期間を観察すると、すべてのケースで株価変動率が上がっている
つまり
変動率が高いということは、投資家の意見の不一致があるということで、株価は安定しなくなる
アメリカの研究でも同様の結果が得られている。
言葉で株価が予測できるか
人間心理と株価の関係が注目されるようになって、心理的バイアスを株価予測に応用する取り組みが行われている。
研究の結果、言葉が持つ予測能力があると考えられる
テキスト・マイニングの手法を用いた解析で、否定的意味を持つ単語軍の出現頻度が近未来のダウ・ジョーンズ株価指数の将来動向を予測することが分かった
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日本市場でやってみると
ナイーブ・ベイズのモデルを使って、解析した結果、前日のニュース記事の言葉の出現パターンをモデルで評価し、5日間ポジションを持って5日後の引け値で手じまう手法を使うと、良い成績が期待できる。
52.3%の正答率と、11.3%の年率リターン
株価の潮流
投資家のプロは1世紀も前から天候が株価に影響を与えていることに気が付いていた。
最近の研究でも、天気の良い日には株価のパフォーマンスがよいという事実が報告されている
Twitterと株価の研究によれば
落着き、とその対である、不安、という分類語句がダウ工業平均株価指数の3日後の値と相関関係が非常に高いことが分かった
目次
第1章 ビッグ・データって何?
第2章 ビッグ・データで株価は読める?
第3章 ビッグ・データで明らかになった株価の季節性
第4章 ビッグ・データを活用して相場の極意を実践する
第5章 バーストを使って隠れた動きを見つけよう
第6章 大規模な「言葉」のデータから相場を予測する
第7章 ビッグ・データで相場の大潮流をつかめ