本書の目的はいくつかあります。
- 要領よく勉強している人と、頑張っても成果の出ない人の違いを伝えること
- どんなやり方の勉強法が良いかではなく、どうしたらその勉強法をさせられるか、が大切だということ
そして、筆者の結論として「ちゃんと解き直しをする」以外の勉強法は無いと言い切ります。
第1章 勉強する前に知っておくべき「記憶」のメカニズム
私たちの脳は、20万年以上前からほとんど変わっていないと言われています。
脳の仕組みは狩猟採集生活で生き残るために最適化されています。
そこため、脳の仕組みを知っておくことが大切です。
記憶には短期記憶と長期記憶があります。
短期記憶
短期記憶で覚えられる量には限りがあるため、子どもには一回の指示で沢山言ってはいけません。
そして、短期記憶は大きくは伸ばすことができません。
ですので、短期記憶を鍛えるよりも、短期記憶の活用の仕方を上手にすることを意識しましょう。
情報をチャンク化(=固まりにする)し、意味を与えることで、すでに持っている長期記憶と結びつき、覚えやすくなります。
意味を考えながら覚える習慣を身につけることで、チャンクの一個一個のサイズを大きくして短期記憶を有効活用することができるのです。
頭に中の雑念を取り去ることも大切です。
紙に書き出すことで頭の中の作業テーブルを頭の外に広げることができます。
長期記憶
長期記憶は保存と検索の2つのメカニズムで動いています。
脳は膨大な記憶容量を持っているとされます。
もし覚えられない、思い出せないというのであれば、保存か検索のどちらかの働きが正しく機能していないだけです。
脳はサバイバルに最適化されています。
そのため、勉強したことを脳に覚えこませるには、この情報は生きるために大切であると誤認させなければなりません。
生きるために大切な情報は
- よく使う情報
- 感情を動かされた記憶
です。
頻繁に使わない知識は、脳が使わないものとして捨てたり、脳の奥にしまって検索ができなくなります。
何度も復習して、この知識は使うものだと脳が認識することは必要なのです。
重要なのはいかに少ない復習で最大の効果を出すかという工夫です。
感情を動かされた記憶は、プラスの気持ちよりもマイナスの気持ちの方が残りやすいです。
ノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマンによると、同じ程度の利益と損失を比べると、損失の方が1.5〜2.5倍くらい大きく感じられるそうです。
ダメな勉強法
何度も書くというのは典型的なダメな勉強法です。
新しい記憶は、まずはエピソード記憶として覚えて、様々な場面で利用したり、繰り返し学習することで知識を定着させていきます。
自分でやってみて、うまくいかなかった時に解説を聞くことで、自分の考え方のどこがいけなかったのかを確認して修正していくのが大切です。
例えば漢字はパーツの組み合わせでできていることを感覚的に理解させることで覚えやすくなります。
第2章 脳のつくりに合わせて効率的に学習させよう!
勉強の王道は「解き直し」をちゃんとすることです。
できているものを再度覚え直す作業を無くすのが効率的です。
そして覚えることをしても記憶には残りません。「テスト」をすることで記憶が定着します。
脳はインプットよりもアウトプットを重視しています。
そのため、繰り返すべきなのはインプットではなく、アウトプットの方なのです。
分散学習
一夜漬けのような短期集中的な学習は、テストが終われば、すぐに記憶から消えてしまいます。
復習する時も、一気に何度もしてはいけません。
復習する時は何回かに分けて、時間を分散するようにしましょう。
記憶しやすいのは最初と最後
- 1日後
- 1週間後
- 1ヶ月後
最初と最後は覚えやすいので、覚えたいものを最初から最後にやりましょう。
学習する順番を入れ替えることで、最初と最後に勉強する内容を変えるのが効率的です。
学習サイクル
復習のタイミング次の3回が効率的です。
なお、近年の研究では、間隔を徐々に広げるより、等間隔の方が良いという結果もあります。
細かいことを考えず、分散してやれば効率的ということのようです。
これを実行するのに便利なツールが下記のフセンです。
「エビングハウスフセン」は、記憶定着のためのベストな復習のタイミングが一目で分かるふせんだ。ドイツの心理学者・エビングハウスが提唱した、時間の経過と記憶の関係をグラフで示した「忘却曲線」をヒントにしている。
https://www.koukouseishinbun.jp/articles/-/10073
ブロック学習とランダム学習
同じ種類のブロックごとに学ぶ方法は、体感として分かりやすかったと感じてしまいますが、実際には力がつきません。
流れ作業と同じでさっきと同じ方法で解けば良いからと、考えなくなるからです。
ランダム学習の方が優れているのです。
しかし多くの教材はブロック学習のものが多く、効率の悪いブロック学習で勉強させられます。
そこで取り入れたいのが過去問や実力テスト形式のものです。
首都圏模試(統一合判)は過去問が公式に販売しています。
普段のテキストをランダム化するアイテムとしてサイコロを使うのも手です。
頭を使う深い処理ほど記憶に残る
- 形式的処理:太字にマーカーで線を引きながらテキストを読む
- 音韻的処理:テキストを音読する
- 意味的処理:意味を考えながら読む
下の順番は1→3に行くほど良い方法です。
では、意味的処理はどうすれば良いでしょうか。
誰かに教えるつもりで読むということです。
子どもには、どんな事が書いてあったかを教えてね、と言えば良いのです。
理解して覚える
覚えたいものにまつわる情報を増やしたり、覚えている情報と繋げることで記憶は思い出しやすくなります。
英語の単語を覚える場合、暗記カードで覚えるよりも、長めの例文で覚えてしまった方が良いということです。
そして理解して覚えるというのは、「構造化」することと「因果関係」が分かるようにすることです。
イメージ化して覚える
脳は単語より画像で覚えるのが得意です。
人の脳は20万年前の野生のままで動いています。
文字のない時代の脳のままですので、文字で覚えるのが苦手です。
単語と画像とで比較した場合、画像の方が成績が良くなりますが、単純な線画でも効果があります。
挿絵や写真、グラフなどでイメージを使って覚えるのが良いです。
また、学習者自身がイメージを思い描くだけでも同じような効果があります。
自分で答えを発見すると強く記憶が刻まれる
こうした経験をさせるためには、
- 問いがあること
- 答えを教えないこと
- 解くための知識・能力が子どもにあること
仮に正解できずに解き方や答えを教えてもらったとしても、考えて間違えたという経験がエピソード記憶として記憶され、正しい解き方や答えが定着しやすくなります。
勉強場所を変えるだけで成績が50%アップ
学習内容に対して紐づく背景情報が多くなると、学習内容を思い出しやすくなります。
睡眠と学力アップ
インプットしたことを定着させるには、睡眠が大切です。
睡眠が不足すると学力は上がりません。よく学び・よく寝ることが学力アップには不可欠です。
睡眠の研究は発展している最中ですが、睡眠は学習における主要な活動であり、学習のために睡眠を削ることは逆効果です。
昼寝にも学習への良い影響があります。
勉強の合間に睡眠を取ることでも学習効率が上がります。
予定通りに勉強が終わらなかった場合、そこで一度寝てしまって、翌日に続きを勉強するのも良い学習法です。
低学年の子は10時間、高学年の子は9時間程度を目標にしたいところです。
記憶の上書き消去を防ぐ
睡眠によって定着する前の記憶は不安定です。
先に勉強して、後にゲームをすると、先にやった勉強の記憶は、後のゲームによって消されてしまいます。
勉強したあとは余計なことをせずに寝るのが良い方法です。
短期記憶(ワーキングメモリ)の働かせ方
本番で頭が真白にならないようにするために、ルーティンを作るのがおすすめです。
練習の時から同じ動作を繰り返し習慣化し、本番でも同じ動作をすることで、脳に練習と同じだということを思わせるのです。
伸学会ではこのルーティンとしてマインドフルネスを取り入れているそうです。
不安を外に追い出す方法もあります。
方法は不安を書き出すことです。
不安を感じる時は、目を背けるのではなく、向き合って整理する方が改善につながるのです。
第3章 ムダなく成績アップにつながる科目別勉強のコツ
算数
土台となる「能力」と、公式や図の書き方といった解法の「知識」の両者がバランスよく必要です。
土台となる能力は感覚です。
- 数の大きさや割合の感覚
- 図形の形をとらえる感覚
- 空間・立体の感覚
などです。
国語 総論
これも算数同様に能力と知識に分かれます
能力
- 正確に読む力
- 早く読む力
- 覚えながら読む力
知識
- 語彙・背景知識
- 言い換える技術
- 理由をたどる技術
- 比べる技術
3つの「能力」と語彙・背景知識を身につけさせるのに効果的なのが読書です。
読む経験を積み重ねることで、速く・正確に・覚えながら読む能力を体得し、語彙・背景知識を吸収していきます。
ただし、読書の効果が出るのは時間がかかります。
国語 各論
国語の成績を上げるのに必要なのが問いに答える力です。「言い換える技術」「理由をたどる技術」「比べる技術」の3つです。
- 言い換える技術は、同じ内容を抽象度を変えて説明することです。
- 理由をたどる技術は、物事の因果関係を整理することです
- 比べる技術は、物事の相互関係を整理することです
言い換える技術
「〇〇とはどういうことですか?」などの問われ方です。
理由たどる技術
「〇〇なのはなぜか説明しなさい」などの問われ方です。
だから、なぜなら、のような接続語が無く、内容から理由を判別しなければならない場合があります。
また、物語文で理由を求められる問題の場合、出来事と気持ちを書かなければなりません。
何か出来事があった → その結果、ある気持ちになった → その結果、ある行動・しぐさ・発言が生まれた
受験では心情語は書かれませんので、文章から読み取る必要があります。
そして絶対に自分だったらとは考えてはいけません。
そこで、人はこういう状況の時はこういう気持ちになるということを知識として覚えておくのです。
これはマナーにもつながります。
比べる技術
物事の相互関係を整理することで、〇〇は〜だが、⬜︎⬜︎は〜だ、という形になります。
社会の勉強法
地理
47都道府県の名前と場所を知っておることで、授業で習ったことの知識の定着が違います。
歴史
人物を顔のイメージと名前を結びつけて覚えましょう。
その次に、その人が関わった歴史上の出来事を紐づけていきます。
公民
世の中の仕組みを学ぶのが公民ですので、自分との関わりを意識させましょう。
選挙に連れて行くなどでも良いです。
理科の勉強法
算数と社会の勉強法で解決できます。
理科は物理、化学、生物、地学に分かれ、生物と地学は暗記が多めです。
第4章 子どもの「勉強…めんどくさい」を乗り越えるために親がしてあげられること
好奇心は学びの量と質を高めます。二重の意味で重要です。
好奇心を育てる方法として図鑑を与えることです。図鑑は何でもいいのです。
大事なのは自分が興味をもったことを図鑑で調べて、新しいことを知るのが楽しいという体験を積み重ねることです。
次に図鑑で興味持ったものを見に行く体験です。
習い事は子どもが好きなことをさせましょう。
何をするのかの差は小さく、何かをやるかやらないかの差は大きいのです。
本当に理解しているかどうかを確かめるには、理解していないとできないことをさせましょう。
おすすめなのは、習ったことを説明させることです。
子どもは解き直しが嫌いです。ですが、解き直しが最も効果があります。