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「「学力」の経済学」内容の要約と紹介:中室牧子

この記事は約5分で読めます。

面白い!とても面白いです!

教育経済学は応用経済学の一分野だそうです。

分析のために膨大なデータを使っての統計分析や、実験というのは、最近よく読んでいる行動経済学系でおなじみなので、ものすごくとっつき易かったです。

今まで、教育学者や学校の先生、塾の先生、子どもを有名大学に進学させた親の経験談、などで語られてきた「教育学」ですが、「個人的な経験」や「思いこみ」で語られてきた現実に、統計学的手法を用いて調査・分析した結果から読み解く「教育学」に光を当てたのが本書です。

(それほど知られていないですが、教育学を専攻する者(大学院の修士課程以上)であれば、統計学的な素養があって当たり前です。純粋文系領域に思われているかもしれませんが、統計学が理解できていない教育学者はニセ者です。)

著者の中室牧子さんは、慶應義塾大学総合政策学部の准教授。

慶応大学を卒業後、日本銀行に勤務。コロンビア大学の公共政策大学院に留学し、修士課程を修了。世界銀行で教育セクターの分析を担当したことが契機となって教育経済学に関心を持ち始め、再びコロンビア大の博士課程に戻り、教育経済学を学びました。「エビデンスベーストの教育政策」を研究しています。

本書は2015年6月に出版されました。(※2024年12月に新たな本が出版されました。)

本書に 「エビデンス」という言葉が頻繁に登場します。証拠や根拠ということです。

本書では「科学的根拠」と書いていますが、概念としては漢字から想起されるものよりも広いと思います。

そして、この用語は、なじみのある人と、そうでない人とでくっきり分かれると思います。

医療系や理系の人間にはなじみの深い人が多いのではないでしょうか。逆に文系の人間にはなじみのない用語だと思います。

ですが、この概念は、急速に一般的なものになってきているので、ごく当たり前の日常用語になっていくものだと思います。

「エビデンス」。この単語は覚えておきましょう。

それらに基づいて、これまで常識として思われていたことが必ずしもそうではないことが示されています。詳細は本書に書かれていますが、かつての常識は、根拠のない迷信のたぐいだったりします。

(別の本になりますが、記憶するということについても、従来の常識がどうやら間違っていることが分かってきているようです。機会があったら、載せて行こうと思います。)

「エビデンス」で最も信頼されるものが「ランダム化比較試験に基づくもの」だそうです。

エビデンスには階層があり、最も信頼度の高い順に次のようになっています。

1.ランダム化比較試験
2.非ランダム化比較試験
3.分析疫学研究(コホート研究やケース・コントロール研究など)…観察研究とも呼ばれる
4.症例報告…観察研究とも言われる
5.論説・専門家の意見や考え

ということで、データの「エビデンスのない教育本」はマユツバということです。

著者が有名だからといって、エビデンスに基づかない個人の経験をあたかも正解のように書いているものは、信用してはいけません。

なぜなら「専門家の意見が間違っている」可能性があるからです。

「専門家の意見が間違っている」という典型的な事例が「はじめに」で書かれています。

×ご褒美で釣っては「いけない」 → ○ご褒美で釣っても「よい」
×ほめ育てはしたほうが「よい」 → ○ほめ育てはしては「いけない」
×ゲームをすると「暴力的になる」 → ○ゲームをしても「暴力的にはならない」

【注意!】上記はとても単純化しています。実際に書かれているのは、上記ほど単純ではありません。上記だけですと、本書に書かれているニュアンスからズレて解釈をしてしまう人がいると思いますので、必ず本書で確認してください。

例えば、『ご褒美で釣っても「よい」』というのは、心理学的な知見に基づく手法で、人間は遠い将来に貰える大きな褒美よりも、すぐに貰える小さな褒美の方に目がくらんでしまう性質を利用しています。

具体的には、「テストでよい点を取ればご褒美」と「本を読んだらご褒美」とで比較した場合、「本を読んだらご褒美」の方が学力テストの結果が良くなりました。

つまり、結果のアウトプットへのご褒美ではなく、インプットの段階でご褒美をあげるのが良いということが分かったのです。

そして、この褒美を与えたからといって、子どもの「勉強することが楽しい」という気持ちは消えなかったといいます。

例えば、『ほめ育てはしては「いけない」』というのは「むやみやたらに子どもをほめると、実力の伴わないナルシストを育てることになりかねません」ということにつながりかねないからです。

そうではなく「努力」をほめるのがよいそうです。努力をほめるのがよいというのは、いろんなところで聞きますが、これもキチンとした「エビデンス」があります。

これまで語られてきた「努力」をほめるというのとは、個人的な経験などに基づくもので、根本的に意味合いが違います。

(『ゲームをしても「暴力的にはならない」』については、本書で確認してください)

本書で語られるのは、

経済学がデータを用いて明らかにしている教育や子育てにかんする発見は、評論家や子育て専門家の指南やノウハウよりも、よっぽど価値がある

ということです。

子育て中の家族や、これから子育てをしていく家族の必読の本だと思います。

上で書かれているように、評論家や子育て専門家の指南やノウハウよりも、よほど説得力があるからです。

そして、特に幼児期の子供を持つ家族は、ぜひ読むべきです。

その理由は、本書に詳しく書かれています。

次ページから詳しく見ていきます。

「学力」の経済学
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目次

はじめに
第1章 他人の〝成功体験〞はわが子にも活かせるのか? - データは個人の経験に勝る
第2章 子どもを〝ご褒美〞で釣ってはいけないのか? - 科学的根拠に基づく子育て
第3章 〝勉強〞は本当にそんなに大切なのか? - 人生の成功に重要な非認知能力
第4章 〝少人数学級〞には効果があるのか? - エビデンスなき日本の教育政策
第5章 〝いい先生〞とはどんな先生なのか? - 日本の教育に欠けている教員の「質」という概念

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