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「AI vs. 教科書が読めない子どもたち」内容の要約と紹介:新井紀子

この記事は約8分で読めます。

次作「AIに負けない子どもを育てる」も併せて読むのをおススメします。

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AIの限界は数学の限界

「はじめに」で著者は断言します。

  • 「AIが神になる?」ーーなりません。
  • 「AIが人類を滅ぼす?」ーー滅ぼしません。
  • 「シンギュラリティが到来する?」ーー到来しません。

なぜなら、AIはコンピューターであり、コンピューターは計算機であり、計算機は計算しかできないからです。

AIがコンピューター上で実現されるソフトウェアである限り、人間の知的活動の全てが数式で表現できなければ、 AI が人間に取って代わることはありません。

今の数学にはその能力がないのです。コンピューターの性能の問題ではなく、大本の数学の限界なのです。

しかし、人間の仕事の多くがAIに代替される社会はすぐそこに迫っています

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教科書程度の文章を正確に理解できない中高生

著者が主導したプロジェクト「東ロボくん」は東大には合格できませんが、MARCHレベルには合格できる偏差値に達しています。

大学受験の上位20%に相当する学力です。大学受験をしない人も入れると、さらに上位になる可能性があります。

このプロジェクトと並行して著者は日本人の読解力に関する大掛かりな調査と分析を行なっています。

その結果わかったのは、日本の中高生の多くは中学校の歴史や理科の教科書程度の文章を正確に理解できないということです。

実はAIも教科書に書かれていることの意味を理解するのは苦手です。

つまり、多くの仕事がAIに代替されても、AIが代替できない新たな仕事が生まれる可能性はありますが、AIでは対処できない新しい仕事は、多くの人間にとっても苦手な仕事である可能性が高いことを意味します。

そうなると、労働市場では深刻な人手不足に陥っているのに、必要な能力を持ち合わせる人材がおらず、失業者や溢れる事態が起こり得るのです。

オックスフォード大学の研究チームによれば、AI によって全雇用者の約半分が職を失う恐れがあると予測しています。

AIの理論的限界

本書の前半ではAIの理論的限界を様々な角度から説明しています。

その上で、後半では来るAIが活躍する世界で生き残るために必要なことは何かを説きます。

その必要なこととは、上記で書かれているように読む力、つまりは読解力です。

人工知能の実現には二つの方法しかありません。

1.人間の知能の原理を数学的に解明して、工学的に再現する方法
2.人間の知能はわからないけれど、工学的に色々試したら何か人工知能ができたという方法

前者は原理的に無理です。

後者の立場の人は飛行機の例を持ち出します。数学的には飛行機が飛ぶ原理は完全には解明されていません。けれども実際に飛んでいるので。同じように実現されるに違いない、というものです。

いずれの立場であったとしても現在の技術や理論ではAIの実現は無理というのが筆者の見解です。

AIの歴史は1950年台の第1次AIブームに始まり、1980年台の第2次ブームを経て1990年代から現在につながる第3次ブームに移行してきました。

第3次ブームでは統計的な方法論に基づく機械学習やディープラーニング、強化学習によって発展してきました。

しかしその根底にあるのは統計的な方法論であり、統計が数学である以上は数学の限界に引きずられる事を意味します。

AIに対する誤解

ブームのAIですが、大きな誤解があるとも言います。

前述の「東ロボくん」にスパコンを使ったとしても、能力が上がるわけではないと言います。

例えば、平面上に四角形があり、各頂点からの距離の和が一番小さくなる点を求めよ、という問題の場合、人は対角線の交点が解だと分かり、証明もできますが、スパコンには永久にできないそうです。

逆に、なぜ人に解けるのかも分からないそうです。

そしてビッグデータを用いれば東大の入試問題が解けるのではないか、という意見もあるそうですが、大学入試ではビッグデータを集めようが無いそうです。

英語について言えば、東ロボくんは最終的に150億文を学習させましたが、センター試験の英会話完成の4択問題ですら画期的に向上させられませんでした。

ハードの性能アップとビッグデータで何とかなるのではないかと言うのがAIに対する大きな幻想です。

それに、そもそもAIは意味を理解しません

あたかも意味を理解しているフリは出来ますが、計算の結果を吐き出しているに過ぎません

AI技術の根幹にある数学には、論理、確立、統計の3つしかありません。

逆に数学で説明できるのは論理的に言えることと、確立・統計で表現できることに限られます。

つまり、コンピューターで出来ることはこの3つに限られ、AIで出来ることも3つに限定される事を意味します。

こうしたAIの限界を理解した上で、後半の読解力の調査結果の話へ続きます。

AIにできない仕事が残る

AIには限界がありますので、AIには出来ないけれども人には出来る仕事が残り、新たに創造されます。

残る仕事の共通点はコミュニケーション能力や理解力が求められる仕事や柔軟な判断が求められる肉体労働が多い様です。

しかし、日本の中高生の読解力は危機的状況です。多くは教科書の記述を正確に読み取ることが出来ていません。

そして、読解力はほとんど高校卒業までに獲得されます。

今の中高生が前の世代に比べて突出して劣っているとは考えられませんので、中高生の読解力が危機的状況にあるということは、多くの日本人の読解力も危機的だということが言えます。

著者は2011年に大学生数学基本調査を実施しました。

その結果、ベネッセの分類による大学のクラスで国立Sクラスを除いて、(私立Sクラスを含めた)大学生は論理的なキャッチボールが出来る能力を身に付けていないことがわかりました。

どの大学に入れるかは、学習量でも知識でもなく、論理的な読解と推論の力であるのではないかと考えられるようになります。

誰もが教科書の記述は理解できるという前提が間違っている

調査の結果から、著者は「誰もが教科書の記述は理解できるはず」という前提に疑問を持ちます。

そこで今度は中高生の基礎的読解力を調査することになります。25,000人のデータが集まりました。

問題文には教科書や新聞記事が使用されました。教科書には悪文が多いという人もいますが、そうだったとしてもそれが理解できなければ、不利益を被るので教科書を読める力は必要です。

すると、能力値の上位と中位・下位で明らかな差が出る問題群があることが分かりました。

そして中学生の半数は、中学校の教科書が読めていない状況であることが分かりました。

調査の結果、高校に入ると読解力が伸びないことも分かりました。理由は分かりません。

大学卒業後に読解力が飛躍的に向上した例もあることか、読解力が生まれつきのものでも、高校生で伸びなくなるわけではありません。

基礎的読解力が、そのまま偏差値と高い相関関係にあることも分かりました。

つまり基礎的読解力が高いと偏差値の高い高校に入れるということです。

旧帝大へ進学者がいる高校だけを選んで基礎的読解力と進学率の相関関係を調べると、高い相関関係があることも分かりました。

超有名私立中高一貫校の教育方針は、教育改革をする上で何の参考にもならないという結論です。

学校の方針で旧帝大へ入れるのではなく、もともと高い読解力を身につけているから、入れる可能性が高いのです。

何が読解力を決定するのかは、まだ分かっていない

では、何が読解力を決定するのでしょう?

・読書習慣?
・学習習慣?
・得意科目?
・スマホの利用頻度?
・新聞の購読の有無?

いずれも相関関係はありませんでした。読解力に影響を与える因子は見つけることができていません

では読解力を上げる方法がないのかというと、そうではありません。

調査に協力した埼玉県戸田市の先生方がきちんと教科書が読める様にするにはどうしたら良いかを考えて実践した結果、埼玉県内でトップクラスの成績を叩き出したのです。

因果関係の検証は必要ですが、一筋の光明です。

一方気になることが見つかっています。就学補助率と能力値の負の関係です。つまり、貧困が読解能力値にマイナスの影響を与えています

中高生基礎的読解力調査の結論

調査の結論は次の通りです。

・中学校を卒業する段階で、約3割が(内容理解を伴わない)表層的な読解もできない
・学力中位の高校でも、半数以上が内容理解を要する読解はできない
・進学率100%の進学校でも、内容理解を要する読解問題の正答率は50%強程度である
・読解能力値と進学できる高校の偏差値の相関は極めて高い
・読解能力値は中学生の間は平均的には向上する
・読解能力値は高校では向上していない
・読解能力値と家庭の経済上状況には負の相関がある
・通塾の有無と読解能力値は無関係
・読書の好き嫌い、科目の得意不得意、1日のスマートフォンの利用時間や学習時間などの自己申告結果と基礎的読解力には相関はない

AI vs. 教科書が読めない子どもたち p228

多くの人が成人するまで教科書を正確に理解する能力を獲得していないことは、企業においても危機的です。

調査に一流企業数社も協力してくれました。これは、マニュアルや仕様書、ビジネス文書を書けない、などの社員が多くなったと実感を持つ企業が増えているからだと思われます。

読解力を養う有効的な方法を科学的に研究されていません。

しかし、何歳になっても読解力は養えると思われます。方法論はともかくとして、能力を高めた実例があるからです。

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