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「AIに負けない子どもを育てる」内容の要約と紹介:新井紀子

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前作「AI vs. 教科書が読めない子どもたち」から1年半。前作を読んだうえで、本書を読むのをおススメします。そうでないと、話の前提が分からないためです。

本書では前作で登場したRST(リーディングスキルテスト)の最新の研究成果が書かれ、RSTを体験できるコーナーが設けられました。後半には著者が考える読解力を培う紙面授業が用意されています。

RSTが体験出るコーナーでは問題が28題用意されています。RSTは教育学における「テスト理論」で妥当性と信頼性があることが分かっています。

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RSTの6分野7項目

RSTでは事実について書かれた短文を正確に読むスキルを6分野7項目に分類しています。

  1. 係り受け解析:文の基本構造(主語・述語・目的語など)を把握する力
  2. 照応解決:指示代名詞が指すものや、省略された主語や目的語を把握する力
  3. 同義文判定:2文の意味が同一であるかどうかを正しく判定する力
  4. 推論:小学6年生までに学校で習う基本的知識と日常生活から得られる常識を動員して文の意味を理解する力
  5. イメージ同定:文章を図やグラフと比べて、内容が一致しているかどうかを認識する能力
  6. 具体例同定:言葉の定義を読んでそれと合致する具体例を認識する能力

具体例同定は、2つに分かれ、辞書由来の問題群と、理数系の教科書由来の問題群に分類されます。

本書が書かれた時点で、11万人の受検者がRST有償版を受験しており、いくつかの特徴的なタイプがあることが分かってきたそうです。そのいくつかが紹介されています。将来的には、もう少しタイプが紹介されると良いと思います。

係り受け解析、照応解決、同義文判定が高いタイプ

大企業のホワイトカラーや教員のなかで最も多いタイプで、活字を読むのは嫌いではないし、知的好奇心はあるのに、理数系やコンピューターに苦手意識があるタイプです。

一行一行を確実に読むのではなく、キーワードを拾って、ザックリと理解しようとします。

推論と具体例同定(理数)が苦手で、つまりは、論理と定義を理解する力が不十分です。

ほぼすべてがそこそこの点数がとれるタイプ。

真面目で優秀で、それなりに論理的です。ただし、多くの組織では、上のタイプやほぼすべてが低いタイプが少なくないため、そうした人の対応で板挟みにあい、多忙に陥ることが少なくありません。

ほぼすべてで低い点数を取るタイプ(中学生平均レベル)

文章ではなく、テレビや動画出ないと頭に入ってこず、メールや契約書など文書で判断しなければならない仕事は厳しいタイプです。

読めていないので、ミスが頻発しますので、叱られることが多いですが、推論と同義文判定ができないので、叱られている理由が分かりません

教員の場合、低学年しか受け持てないとか、知識伝達型の授業しかできないことが懸念されます。

外れ値① 知識で解いてしまうタイプ

係り受け解析や照応解決がそれほど高くないのに、具体例同定(理数)だけが満点のタイプや、推論や具体例同定(理数)がそれほど高くないのに、具体例同定(辞書)だけが満点のタイプです。

前者の場合、理数系の教員や、金融系ならクオンツ志望など、理数系の特殊な教育を受けてきた人にほぼ限られるそうです。後者は国語の先生や文学部出身者に多いようです。

外れ値② すべて満点型

上位1%未満の基礎的・汎用的読解力を有しています。

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RSTで分かっていること

RSTのこれまでのサンプル調査から科学的にわかっているのは次のことです。

1.高校のRST能力値の平均とその高校の偏差値には極めて高い相関がある。
2.中学生は学年が上がるに従ってRSTの能力値が全体としては上がる傾向があるが、分散が大きすぎるため、相関係数は0.1程度に留まる
3.高校生では、全体としても個人としても、RSTの能力値が自然に上がるとはいえない。
4.RSTは知識を問う問題ではない。純粋に短文を正確に読める能力を問うている。
5.中学生では個人のRSTの能力値と学テの成績には中程度の相関がある。
6.中学生の学校外での学習時間(自己申告)とRSTの能力値に相関はない。

AIに負けない子どもを育てる p144

このRSTは日本オリジナルのテストですが、日本のように公平で統制がとれた教育制度と極めて厳格な大学入試制度を維持している国はほとんどないため、海外で同じようなテストを展開するのは難しいようです。

RSTとは違う方法ですが、大人の読解力を調査したのがOECDのPIAAC(国際成人力調査)です。1回目が2011年から12年にかけて世界24か国で実施されました。主導したのはシュライヒャー博士でした。

15歳のリテラシーを測るPISA調査同様に、PIAACの問題は作問に非常に手間がかかり、一問一問が長く、出題できる問題数が少なくなります。多角的な力を測れるという利点がありますが、テスト理論からは一貫性や信頼性を保つことが難しくなっています。

リーディングスキルを上げる方法は分かっていない

さて、どうしたら、リーディングスキルが上がるのか。前作でもそうでしたが、方法論は書かれていません。というより、まだ分からない、ということのようです。

筆者は板書を書き写させないことが原因の一端ではないかと考えています。板書しないために、ノートの取れない高校生や大学生になってしまうと言います。

そして、授業であらかじめ穴埋め形式のプリントを配り、テストでも穴埋め部分を埋めれば点数が取れてしまうので、キーワードだけしか覚えなくなってしまうのではないかというのです。

これは検証が必要なので、研究によって結果を分析してほしいところです。

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