成績に最短で直結する勉強法
科学的に分かっている
タイトルの通り、科学的に分かっていることと、著者の塾講師としての経験則の混ぜた内容となっています。そのため、信頼できるエビデンス・ベースド・エデュケーションではないですが、一定の参考にはなる内容だと思います。
「はじめに」で科学的に非効率であることがわかっている学習法が紹介されています。
・テスト前日の徹夜での勉強(=一夜漬け)
・試験直前1週間くらいでの集中的な頑張り(一夜漬けではないですが…)
・漢字の書き取りを10回も20回もする
・ノートの清書
・蛍光ペンで色を塗ったり、アンダーラインをひきながら読む
そして、著者の結論として、ちゃんと解き直しをする、以上の勉強法はないと書かれています。ですが、この解き直しを子供にさせるのが難しいのです。そこで、どんなやり方が良い勉強法か、どうすれば子供のその勉強法をさせられるかが大切になるのです。
第1章 勉強する前に知っておくべき「記憶」のメカニズム
私たちの脳は、ホモ・サピエンスが誕生した20万年以上前からほとんど変わっていないと言われています。
そのため、脳の仕組みは、狩猟採集生活で生き残るために最適化されたままです。常に飢え死にや危険との隣り合わせの生活が続いていたわけですから、覚えるべき内容が現代とは大幅に異なっています。
脳は2階建てのイメージです。
1階では直感的に反応する原始的な機能の脳、2階は考えて判断する理性的な機能の脳です。この2つの役割をうまく発揮できると、勉強の成績につなげることができるようになります。
ですが、これらの機能は無意識に無自覚に働いていますので、どう働かせるかを知っておかないとコントロールができません。
また、複数の勉強方法がある場合、どれが良いやり方なのか自覚できませんので、それに気づかせる工夫が必要です。
短期記憶と長期記憶
記憶には短期記憶と長期記憶があります。
短期記憶は、物事を考えるために一時的に置いておく場所のイメージです。脳の1階部分が担当します。一方で、長期記憶は大事だと判断された情報がしまわれ、検索する働きがあります。脳の2階部分が担当します。そして、長期記憶から記憶を持ってくるのは脳の1階部分の仕事です。
短期記憶で人が覚えられるのは、大人で5~9桁です。(マジックナンバー7±2と表現されることが多いです。)
しかも、これは大人が集中しているときのことですので、気が散りやすい子供には、1回の指示でたくさんのことを言わないことが重要です。
ところが、短期記憶は大きく伸ばすことができません。そのため、短期記憶を鍛えるよりも、短期記憶の活用の仕方を上手にすることが大事となります。
算数で問題文が長くなったとたんできなる子が増えます。「3行の壁」と呼ばれる有名な話です。
そこで効果的なのが、「チャンク化」です。つまり塊にすることです。
例えば、無意味な数字の羅列を語呂合わせにすることで、意味がわかるようにすることです。すでに持っている長期記憶と結びつけて、格段に覚えやすくなります。
短期記憶の量は大きく増えませんが、意味を考えながら覚える習慣を身につけることで、1個1個のサイズを大きくして短期記憶を有効活用することのほうが重要になります。
雑念や不安やプレッシャーは短期記憶の場所をとってしまうので、気をつけましょう。
紙に書き出すことで、頭の中の作業テーブルを頭の外に広げることも重要です。
保存されやすい記憶と、検索しやすい記憶
人は脳に1,000テラバイトの記憶容量を持っていると言われます。フルハイビジョンの2時間映画が4万本分。4~6年の算国理社のテキストをスキャンしたデータは4ギガ程度です。
ですので、覚えられない、思い出せないというのは、保存か検索のどちらかの働きが正しく機能していないだけになります。正しく機能させれば、本来の能力を発揮することができるようになります。
冒頭でも書かれているように、人の脳は20万年前から変わっていません。自然の中で生き延びるために最適化されています。そのため、生き延びるために大切だと脳が判断したものが記憶されていきます。
脳に、この情報は生きるために大切であると誤認させる必要が出てきます。
生きるために大切な2つの記憶があります。「よく使う記憶」と「感情を動かされた記憶」です。
何度も復習して、この知識は使うものだと脳に認識させることが必要となります。重要なのは、いかに少ない復讐で最大の効果を出すかという工夫です。
また、うれしい気持ちや楽しい気持ちによって、記憶はしっかり保存され、検索されやすくなります。話の面白い先生は授業が分かりやすく感じて、記憶に残りやすくなります。
思い出しやすいのは、プラスの気持ちだけでなく、マイナスの気持ちも同じです。
むしろ、マイナスの気持ちの方が記憶に残りやすくなります。
ダニエル・カーネマンの研究によると、同じ程度の利益と損失を出した場合、損失の方が大きく感じることがわかっています。
マイナスの方が強く感じられるのは、サバイバル環境では、命に関わる危険情報を忘れないためです。
何度も書く方法はダメです
漢字を何度も書く方法は典型的なダメな勉強法です。
長期記憶には、①宣言記憶と②手続き記憶があります。
①宣言記憶は、記憶された情報が言葉で表現可能なものです。これはさらに(1)意味記憶と(2)エピソード記憶に分かれます。
(1)意味記憶は一般的知識に関する情報です。(2)エピソード記憶は個人的な思い出に関する記憶です。
新しい知識は(2)エピソード記憶として覚えることになります。それを様々な場面で利用したり、何度も繰り返し学習することで、一般的ない知識としての意味記憶になっていきます。
一方で、言葉で表現できないものは②手続き記憶と呼ばれます。泳ぎ方や自転車の乗り方など、運動技能や段取りに関する記憶です。
②手続き記憶の最大の特徴は、本人の反復練習によってのみ習得が可能という点です。経験を積むしかないのです。
授業でのインプットだけではできるようにならないので、自分でやってみてうまくいかなかったときに解説を聞くことで、自分の考え方の誤りを確認して修正していくことが必要となります。
書いて覚えるのに有効なのは、無意味な図形など、形を思い出すのが困難な場合です。形を覚えるのは②手続き記憶です。
熟語を覚える場合は、書くことの効果はありません。熟語は(1)意味記憶です。
漢字の9割は、意味と読み方の組みあ合わせでできています。感じがパーツの組み合わせでできているので、感覚的に理解させることが大切です。(英単語においても、同じですね。)
②手続き記憶は習得するのは大変ですが、一度身につければ、そうそう忘れないという利点もあります。
第2章 脳のつくりに合わせて効率的に学習させよう!
アウトプットが大切
脳はよく使う記憶は大切に違いないと判断しますので、反復学習が大切になります。学習を繰り返せば、基本的には学力は伸びていきます。
アメリカのパデュー大学のカーピック博士がワシントン大学の学生相手に行った実験で分かったことがあります。
それは、「テスト」を行うことで記憶が定着するということです。
できているものを覚え直す作業は減らすのは効率出来ですが、覚えるということをしても記憶には残りません。
脳の仕組みはインプットよりもアウトプットに偏重しています。
繰り返すべきはインプットではなくアウトプットの方です。
分散学習が効果的
短期集中的な学習は、テストが終わってから1か月もすれば、記憶からきれいに消えてしまいます。科学的に実証されています。
ですので、分散学習が効果的です。
復習も一緒です。一度に何度もやってはいけません
記憶しやすいのは、最初と最後です。
最初に記憶が残りやすいのを初頭効果と呼び、最後に記憶が残りやすいのを親近性効果(終末効果)と呼ばれます。合わせて系列位置効果と呼ばれます。
これは大きな枠組みでも小さな枠組みでも起こりますので、1日の中でも朝起きたあとと、夜寝る前です。この時間帯に勉強するのがいいです。
そして、その勉強時間の中でも、最初と最後が記憶に残りやすいので、最初と最後に最も覚えたいことを学習するのが効率的です。
学習する順序を入れ替えることで、最初と最後にまんべんなく必要な項目が学べるようになります。
同じ科目を続けて勉強するよりも、科目を入れ替えるのも効率的です。
集中学習の効果が薄いのであれば、どれくらいの間隔を開ければよいのでしょう。
1980年代のピョートル・ウォズニアックや2008年のニコラス・セペダとダグ・ローラーの実験から、だいたい次のようになります。
1日後、1週間後、1か月後に復習するのがよさそうです。
近年の研究では、間隔を徐々に広げるよりも、等間隔の方が記憶に残りやすいことを示す結果も出てきています。
ようするに、分散して勉強するのが効率的ということです。
ランダム学習が効果的
2007年にサウスフロリダ大学のケリー・テイラーとダグ・ローラーは、似た内容を学ぶ「ブロック学習」とランダムに学ぶ「ランダム学習」の比較実験を行いました。
その結果「ランダム学習」の方が効果的であることがわかりました。
問題演習の順番を変えることにより、流れ作業的な学習から、考える学習に切り替わるということです。
ウィリアムズカレッジのネイト・コーネルの実験も結果を裏付けています。
ただし、学習者は「ブロック学習」の方が「よかった」と感じることも分かっています。
教科書をはじめとした各種テキストは「ブロック学習」なので、自分で意図的に「ランダム学習」を取り入れることが必要です。
1つの方法は、過去問や実力テストを活用することです。
やる順番をランダムにするだけで学習効果が上がるので、サイコロをつかって学習の順番を決めるのも効果的です。
誰かに教えるつもりでの勉強
頭をよく使う「深い処理」をしたときほど記憶に残りやすいことがわかっています。
クラークとロックハートが提唱した処理水準節では次のようになります。
1.形態的処理 太字などにマーカーで線を引きながらテキストを読む
2.音韻的処理 テキストを音読する
3.意味的処理 意味を考えながら読む
1⇒3の順で効果的になります。最も効果があるのが意味を考えながら読むことです。
ですが、これは難しいので、一番簡単な方法が「誰かに教えるつもりで読むということ」です。
この効果はワシントン大学のジョン・ネストイコらの実権によっても確認されています。
子供には「どんなことが書いてあったか、あとで教えてね」と言えばいいのです。
理解して覚える
覚えたいものに関係する情報を増やしたり、覚えている情報とつなげることで、記憶は思い出しやすくなります。これを「精緻化」といいます。
意味を考えると覚えやすくなるというのも、精緻化するための方法の一つです。
1.階層構造 G・H・バウアーらは鉱物のリストを覚えさせる実権を行いました。ひとつのグループにはそのまま覚えさせ、もうひとつのグループには階層構造を与えたところ、階層構造を与えられた方がよく覚えていました。
2.因果関係 なんでそうなったと思うか、を考えさせること
「階層構造」と「因果関係」を使うことで、論理的な頭の使い方ができるようになっていきます。
イメージ化
脳は単語よりも画像で覚えるのが得意です。画像優位性効果と呼ばれ、実験でも確認されています。
詳細な画像である必要はなく、単純な線画でも効果があることがわかっています。
ですので、学習でも、教科書・テキストの文字だけでなく、挿絵や写真、グラフを見て覚えるのが良いです。
学習者自身がイメージを思い描くことも同じように効果があります。
イメージする力はイメージする経験によって育ちますので、学習漫画などでイメージを与えるのもよいです。
自分で答えに気づく
自力で正解を発見すると、経験は強く記憶に刻まれるのを、生育効果といいます。
そういう経験をさせるためには、次の3つが必要です。
1.問いがあること
2.答えを教えないこと
3.解くための知識・能力kが子供にあること
子供が自力でできるレベルの課題を与えるだけです。
また、解けなくても重要ではありません。
解けずに回答を教えてもらったとしても、考えて間違えたという経験がエピソード記憶として残ります。
勉強場所を変えると効果的
勉強場所を変えるだけで、点数が50%もアップします。これはエピソード記憶に関わってきます。
勉強場所を変えることで、勉強内容が思い出しやすくなるのです。学校、塾、家、図書館、自習室など複数の勉強場所を持っていることで、どこでテストされても思い出すようになります。
睡眠は重要
たくさんインプットしても、睡眠が不足すると、学力は上がりません。良く学び、良く寝ることが学力アップには不可欠です。勉強の合間に睡眠をとることでも学習効率が上がります。
予定通りに勉強が終わらなかったら、勉強を終わりにして寝て、翌日に続きを勉強するのが良い学習法となります。
睡眠によって定着する前の記憶はもろいことがわかっています。これを「記憶の干渉」と呼びます。
さきに勉強をして、あとにゲームをすると、勉強の記憶はゲームによって消されてしまうのです。
ですから、勉強した後は余計なことをせずにすぐ寝るのが良いです。
ゲームをするなら、勉強をして、ゲームをして、寝る前にもう一度復習するのが良いです。
睡眠については、「スタンフォード式 最高の睡眠」が参考になります。
短期記憶の働かせ方
シアン・L・ベイロックの調査で、高い短期記憶の能力を持っていても、プレッシャーがかかると力が発揮できないことがわかりました。
テスト前にプレッシャーをかけてはいけないということです。
試験本番で短期記憶をしっかり働かせるためには、闘争・逃避反応が起きないようにすることと、不安を心の外に出すことです。
そのためには、練習通りの力を発揮させる必要がありますが、「ルーティンを作ること」がおすすめです。なかでも「マインドフルネス瞑想」がおすすめです。
マインドフルネス瞑想については、「世界のエリートがやっている最高の休息法」が参考になります。
不安を外に追い出す方法としては、「不安を書き出すこと」がおすすめです。目を背けるよりも、向き合って整理する方が改善につながります。
第3章以降
第3章以降は科目ごとのお話へ移ります。
そちらに興味がある方は本書でご確認いただくのがよいと思います。