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「スタンフォード式 最高の睡眠」内容の要約と紹介:西野精治

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スタンフォード大学の睡眠研究

スタンフォード大学の睡眠研究は「世界最高」の呼び声高い。1963年にウィリアム・C・デメント博士により創設された「スタンフォード睡眠研究所」は、世界の睡眠医学を牽引してきた。数多くの睡眠研究者を輩出していることから「世界最高の睡眠研究機関」と呼ばれている。

著者の西野精治(にしの・せいじ)教授は、スタンフォード大学医学部精神科教授で同大学睡眠生体リズム研究所(SCNラボ)所長。医師で、医学博士。突然眠りに落ちてしまう過眠症「ナルコレプシー」の研究が専門。2000年にはグループの中心としてヒトのナルコレプシーの主たる発生メカニズムを突き止めた。2005年にSCNラボの所長に就任。睡眠・覚醒のメカニズムを、分子・遺伝子レベルから個体レベルまでの幅広い視野で研究している。「睡眠の謎を解き明かして社会に還元する」ことを命題とし、「エアウィーヴ」の開発研究にも携わった。

本書では、エビデンスに基づいた「究極の疲労回復」法が紹介されています。

2017/2/27刊

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プロローグ 「ぐっすり」を追求した究極のスタンフォード・メソッド

睡眠医学の歴史は新しい。転機となるのは1953年にレム睡眠が発見されたことだった。「脳は起きていて体は寝ている」というレム睡眠の不思議な状態にいち早く注目したのがスタンフォード大学だった。ウィリアム・C・デメント博士などの優秀な人材が集められ、1963年に「スタンフォード睡眠研究所」が設立された。

1990年にアメリカ議会の要請を受けて行った睡眠障害の実態調査によると、さまざまな病気につながることと、産業事故を含めて700億ドルの損失になると試算された。これにより、睡眠の重要性と、睡眠障害の危険を広く知らしめることになった。

現在では、睡眠医学の研究は多様化してスタンフォード大学の他にも、ハーバード大学やウィスコンシン大学、ピッツバーグ大学、カリフォルニア大学ロサンゼルス校、フランスのリヨン大学などの貢献が素晴らしい。

「最高の睡眠」において、たくさん寝るという量よりも、質のほうが大事である。そもそも、現代人にとって、今以上の量の確保は現実的ではない。さらに、睡眠時間が長すぎると、かえって体に悪いというエビデンスも出てきている。

最高の睡眠とは何だろう?
答えは、「脳・体・精神」を最高のコンディションに整える、「究極的に質が高まった睡眠」となる。
睡眠と覚醒(パフォーマンス)はセットになっている。
脳・精神・体のコンディションを整える質の良い睡眠をとれば、仕事でも勉強でもパフォーマンスの高い一日が送れるし、単に量を求めてだらだら眠ったら、調子が崩れてします。

スタンフォード式 最高の睡眠 p8

では、どうすれば質のいい睡眠となるのか?

鍵は「90分の黄金法則」である。

レム・ノンレムの周期にかかわらず、睡眠の質は、眠り始めの90分で決まる。

どんなに忙しくても、「最初の90分」をしっかり深く眠ることができれば、最高の睡眠がとれる。

睡眠は最高の味方であるが、敵に回すと最悪な恐ろしい相手である。

睡眠は人生3分の1の時間を占め、残りの3分の2を決める。

第0章 「よく寝る」だけでパフォーマンスは上がらない

ここでは睡眠時間と睡眠の質について詳しく掘り下げている。

睡眠が足りていない状態を「睡眠負債」と表現する。「睡眠負債」は睡眠時間が足りないことによって、簡単には解決しない深刻なマイナス要因が積み重なり、気が付かないうちに眠りの借金がたまる。

睡眠負債は飲酒運転よりも危険かもしれない。一見普通でも、実はすべての機能が正常に働いていない可能性が高い。

アメリカの学会誌「Sleep」に発表された実験結果。

夜勤明けの内科医は、図形が約90回出現するうち、3、4回も数秒間図形に反応しなかった。反応しない間、なんと医師たちは眠っていたのである!
さらに恐ろしいのは、夜勤明けのこの医師たちは、勤務時間中だったことだ。
夜勤明けの医師たちが陥ったこのような状態をマイクロスリープ(瞬間的居眠り)といい、この状態は脳波で確認できる。マイクロスリープは1秒足らずから10秒程度の眠りを指し、脳を守る防御反応と言われている。
つまり、防御反応が出るくらい睡眠負債は「脳に悪い」のである。

スタンフォード式 最高の睡眠 p29

日本には、睡眠負債を抱える、睡眠不足症候群の人々が外国に比べて多い。

いくつかの国での平均睡眠時間は次の通り

  • フランス 8.7時間
  • アメリカ 7.5時間
  • 日本 6.5時間

日本では睡眠時間が6時間未満の人が約40%もいると言われている。6時間未満は、アメリカだと短時間睡眠とされる数値である。

2016年のミシガン大学のインターネットでの調査によると、日本の睡眠時間は100か国中最下位にランクされた。

また、著者の調査によると、日本人は7.2時間くらい眠りたいと感じているので、「眠りたい時間」と「実際の睡眠時間の差」も諸外国に比べて大きいことになる。

さらに、日本では都会に住む人ほど練れていない。東京の平日の平均睡眠時間は5.59時間。世界の都市に比べてダントツで少ない。

一方で、短時間睡眠でも大丈夫なショートスリーパーがいる。遺伝子を調べると、生体リズムに関係する「時計遺伝子」に変異があることが分かった。著者は「短時間睡眠は遺伝」であるという結論を出している。

ほとんどの人は短眠の遺伝子を持っていない。ショートスリーパーを目指すのは間違いであり、デメリットが大きすぎる。

短眠のデメリットは他にもある。

2002年のサンディエゴ大学のダニエル・F・クイプケ氏らによる100万人調査による追跡調査では、アメリカの平均の睡眠時間は7.5時間で、6年後の死亡率は、平均に近い7時間の人が一番低く、短時間睡眠でも、逆に長時間睡眠の人でも、それより1.3倍高かった。傾向として、短時間睡眠の人は短命である

また、短時間睡眠の女性は肥満度を示すBMIが高かった

  • 「インスリン」の分泌が悪くなり、血糖値が高くなって、糖尿病を招きやすい。
  • 食べ過ぎを抑制する「レプチン」ホルモンが出ず、太りやすい。
  • 食欲を増す「グレリン」ホルモンが出るため、太りやすい。
  • 交感神経の緊張状態が続いて、高血圧になりやすい。
  • 精神が不安定になり、うつ病、不安障害、アルコール依存、薬物依存の発症率が高くなる。
  • 認知症にかかりやすくなる可能性がある。

かと言って、長時間でもよくない

  • 1日1時間以上の昼寝は認知症リスクを高める。
  • 1日1時間以上の昼寝は糖尿病リスクを高める。

だが、逆に言えば、睡眠負債を返せば、パフォーマンスは劇的に上がる。とはいっても、睡眠負債はなかなか返せない。

生理的に必要な睡眠時間を調べる実験で、平均睡眠時間が7.5時間の健康な10人を14時間ベットに入れると、徐々に睡眠時間が固定され3週間後に8.2時間に固定された。

つまり、40分の睡眠負債を解消するのに、3週間かかるのである。週末の寝だめでは、睡眠負債は解決しない。いかに睡眠の質を高めるかが重要になってくる。

意識したいのは、入眠直後の「最初のノンレム睡眠」90分をいかに深くするかである。

最初の90分にグロースホルモン(成長ホルモン)が最も多く分泌される。大人の細胞の増殖や正常な代謝を促進させる働きがある。

この最初の90分の質を高めれば、すっきりした朝を迎えられる。寝る時間がないなら、絶対に90分の質を下げてはならない。

第1章 なぜ人は「人生の3分の1」も眠るのか

ここでは良質な睡眠の土台となる「睡眠基礎知識」について書かれている。

日本でもアメリカでも慢性的に不眠の症状を抱えている人はおよそ20~30%いるとされる。

睡眠の臨床医は患者に睡眠生理の説明をしてから、認知行動療法に移ると効果が上がると、述べている。

だから、第1章で睡眠の基礎知識を理解して、間違ったジャンク情報を捨てる必要がある。

睡眠に課せられた5つのミッション

  1. 脳と体に「休息」を与える
  2. 「記憶」を整理して定着させる
  3. 「ホルモンバランス」を調整する
  4. 「免疫力」を上げて病気を遠ざける
  5. 「脳の老廃物」をとる

「夢」の不思議

夢は見た回数が多いほど、レム睡眠とノンレム睡眠のスリープサイクルをしっかり回せていることになる。

眠りの質はどうすればわかる?

睡眠の量と質を測定できる施設は限られており、さらには時間と手間がかかる。そこで、自覚症状をフル活用するのがよい。睡眠は誰とも共有できない個人的な体験だからだ。

危険な睡眠時無呼吸症候群

カナダの調査によると、睡眠時無呼吸症候群の人は、診断され治療がなされれば、個人の年間医療費総額が半分に減るというデータがある。

日本人の場合、痩せていても睡眠時無呼吸症候群になる。アジア人は、下あごが奥まり、気道がもともと狭いためである。

口呼吸も危険

睡眠障害のサインとされるいびきは、口呼吸であり、口呼吸は睡眠の質を下げる。

第2章 夜に秘められた「黄金の90分」の法則

ここでは「なぜ90分で勝負が分かれるのか」をデータで検証する。

大量のアルコールは睡眠の質を下げるが、度数が高くても量が少なければ、心配はない。飲んですぐに眠ることで、最初の90分をしっかり眠れる人もいる。

健康な人の場合、目を閉じてから10分未満で入眠する。入眠後は比較的短時間で一番深いノンレム睡眠にたどり着く。

この最初の90分(~120分)のノンレム睡眠がしっかりできていれば、6時間睡眠でもぐっすり眠れてすっきりすることもありえる。

最初の90分が「黄金」になる3大メリット

  1. 寝ているだけで「自律神経」が整う
  2. 「グロースホルモン」が分泌される
  3. 「脳のコンディション」が良くなる

「体温」と「脳」の眠りのスイッチ

「体温」のスイッチ

健康な人の場合、入眠前には手足が温かくなる。皮膚温度が上がって熱を放散し、体の内部の体温である深部体温を下げている。

このとき、皮膚温度と深部温度の差は2℃以下に縮まっているので、スムーズな入眠には皮膚温度と深部温度の差を縮めることが重要となる。

「脳」のスイッチ

脳が興奮していると、体温も下がりにくい。

第3章 スタンフォード式最高の睡眠法

ここでは最高の90分を得るためのメソッドが登場する。キーワードは3つ。「体温」「脳」「スイッチ」

3つの「体温スイッチ」

1.就寝90分前の入浴

皮膚温度と深部温度の差を縮める方法として「入浴」がある。入浴は深部体温を動かす強力なスイッチとなる。40℃のお風呂に15分入れば、深部体温は0.5℃上がる。深部体温は上がった分だけ大きく下がる。

0.5℃上がった深部体温が元に戻るのにかかるのが90分。寝る90分前までに入浴すれば、その後さらに深部体温が下がって、皮膚温度との差が縮まり、スムーズに入眠できる。

90分前の入浴が難しい場合、シャワーがベスト。深部体温が上がりすぎないように、ぬるい入浴かシャワーで済ませる。

2.足湯の「熱放散力」

シャワーより効果的な即効スイッチが「足湯」。これであれば、寝る直前でもオーケー。

だが、靴下を履いたままはNG。足からの熱放散が妨げられてしまうためである。かえって眠りの妨げとなる。

3.体温効果を上げる室温コンディショニング

体温は外気温にすぐには反応しないので、睡眠ステージごとに室温を調整する必要がある。また、適温は個人によって差があるので、何度がよいということは示せない。

脳を休めるには、温度を下げたほうがいい。

「脳のスイッチ」

環境が変わると、脳が反応して、不眠症になる可能性がある。旅先で眠れないというのは、環境の変化が脳に刺激を与え、入眠が妨げられるためである。睡眠も外的な状況に非常に影響を受けるということである。

1.「モノトナス」(=単調な状態)を作り出す

「退屈」にすることは、睡眠にとって「良き友」である。「いつものパターン」を好む脳の性質を利用して、睡眠のルーティンをつくるのも役に立つ。

いつも通りのベッドで、いつも通りの時間に、いつも通りのパジャマで、いつも通りの照明と室温で寝る。そのほかの習慣があるのなら、いつも通りに行う。

ただし、習慣であっても、スマホはやめよう。いろいろできるので、交感神経活動を上げてしまうからである。

2.羊の数え方

昔から伝わることでも、なぜ効果的なのかの、根拠を知らなければ意味がない。

ちなみに、羊を100匹数えるというのは間違っている。このルーティンはもともと英語で、「Sheep, sheep, sheep…」と唱えるだけで、数えるわけではない。

第4章 超究極!熟眠をもたらすスタンフォード覚醒戦略

ここでは「眠りの質を高める」習慣術について書かれている。

1.覚醒スイッチ1 光

人間はおよそ24.2時間。体温、自律神経、脳やホルモンの働きも、光がないとリズムが崩れて調子が悪くなる。

2.覚醒スイッチ2 体温

覚醒時にはしっかりと体温を上げてスイッチオンにしておくこと。

睡眠レベルを高める覚醒戦略

1.覚醒戦略1 アラームは2つの時間でセットする

レム睡眠がいつ出現するのか調べるのは難しいので、起床のウィンドウ(余白)をつくる方法を推奨する。具体的にはアラームを2つの時間でセットする方法。

例えば、7時に起きる場合は、6時40分と7時の20分の起床ウィンドウを開けてセットする。最初のアラームは、ごく微音で、短くする。

2.覚醒戦略2 眠りへの誘惑物質を断捨離する

ベッドから出たら、天気にかかわらず、朝の光を浴びる。効果はとてつもなく大きい。

3.覚醒戦略3 裸足朝活で覚醒ステージを上げる

上行性網様体を刺激すれば覚醒する。一つの方法として、床にじかに触れることで、皮膚感覚を刺激する方法がある。特に冬場は冷たい床が覚醒のスイッチとなる。

4.覚醒戦略4 ハンドウォッシュで目を覚ます

手を冷たい水で洗う。手を水につけることで、深部体温と皮膚温度の差を広げるのが目的であるが、朝風呂はあまりおすすめできない。かえって眠くなってしまう。朝はシャワーがおすすめとなる。

5.覚醒戦略5 咀嚼力で眠りと記憶を強化する

朝食には体内時計のリセット効果と肥満防止効果があり、一石二鳥である。汁物は体温を上げる効果があるので、覚醒を助けるのに役立つ。

また、よく噛むことが重要である。噛むことが睡眠・行動パターンに影響する。噛むことで三叉神経から脳に刺激が伝わる。よく噛むことは1日のメリハリをつけるのに役立つ。

6.覚醒戦略6 汗だくを避ける

体温が上がりすぎると発汗による熱放散が起きて、元の体温より下がり、眠気が来てしまう。汗だくになる運動は避けること。

7.覚醒戦略7 テイクアウト・コーヒーでカフェイン以上を取り込む

1日5杯までならコーヒーは許容範囲であり、2型糖尿病、肝臓がん、子宮内膜がんのリスクを減らす。

ただし、血中のカフェイン濃度は半分になるまでに約4時間かかる。就寝1時間前と、3時間前にコーヒーを1杯飲むと、10分ほど寝付くまでの時間が長くなり、30分程度睡眠時間が短くなる。

コーヒーをテイクアウトすることで、ほかの刺激と同時に行えば、相乗効果が期待できる。

8.覚醒戦略8 大事なことをする時間を変える

睡眠前にできるだけ頭を頭を使わないように、仕事の配分を変える。

9.覚醒戦略9 夕食抜き生活は眠りにマイナス

夕食を抜くと、オレキシンの分泌が促進され、食欲が増大して、覚醒して眠れなくなる可能性がある。夕食抜きは、眠りと健康にとって「百害あって一利なし」である。

10.覚醒戦略10 夜の冷やしトマトで睡眠力アップ

深部体温を下げる食品を夕食に取り入れるのも一案である。身近なところでは冷やしトマト。

他には漢方薬やカノコソウ、カモミールのようなハーブ。

11.覚醒戦略11 金の眠りになる酒を飲む

ギャバ(GABA)は抑制系の神経伝達物質のアミノ酸で、脳内に広く分布している。ただし、ギャバへの影響の与え方には注意が必要である。

お酒も入眠作用があるが、睡眠薬と同じくらい強く、使いようによっては危険である。

少量であれば、寝つきもよくなり睡眠の質を下げない。日本酒換算で1~1.5合が目安である。

第5章 「眠気」を制する者が人生を制す

ここでは「眠気」との賢い戦い方が書かれている。

眠気は、まとまった長い覚醒を維持できない状態を指している。

健康な人でも、1日のうち、14時ごろが眠りやす時間ということが分かっている。これを「アフタヌーンディップ」と呼んでいる。

原因は2つある。

  • 1つは睡眠負債によって睡眠圧が増してくること。
  • もう1つはサーカディアンリズムや90~120分でやってくるとされるウルトラディアンリズムなどの体内時計の問題である。

睡眠負債からくる眠気は、短い昼寝で眠気を解消するのは難しい

昼食は眠気とは関係がない。生物的に、ランチは午後に眠くなる要因ではない。

スタンフォード式「アンチスリーピング」メソッド

会話は覚醒の強いスイッチになるので、積極的に発言をすれば眠気は感じずに済む

また、たくさんある覚醒スイッチをオンにするやり方はいろいろあるが、ガムをかむこともその一つ。

カフェインも覚醒スイッチになるので、コーヒーや緑茶、紅茶、抹茶もよい。

温かいものを飲めば、多少は体温が上がり覚醒度が上がる。

20分程度の仮眠でも、ある程度のリアクションタイムが回復することが分かっている。そして、30分未満の昼寝をする人は、昼寝の習慣のない人に比べて認知法発症率が約7分の1だった。逆に、1時間以上昼寝する人は、昼寝の習慣のない人に比べて発症率が2倍も高かった。仮眠をするなら、20分程度がよさそうだ。

だが、朝晩の通勤電車での細切れ睡眠は、補助的にすぎない。連続して眠った6時間と、細切れの6時間では質が全く異なる。

土日も1~2時間程度多めに眠るくらいなら問題はないが、就寝時間はウィークデーと同じにするのがおすすめ。

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