著者の研究テーマは、人間の信念の力を証明するというものです。
人間の信念は、本人が意識しているといないとにかかわらず、その人がどんなことを望むか、そして、その望みがかなうかどうかに大きく影響する。また、信念を変えることは―それがどれほど単純な信念であれ―甚大な効果をもたらすことが、すでに実証されている。
本書を読まれれば、自分についてのある単純な信念―私たちの研究で発見された信念―が人生をどれほど大きく左右しているかがおわかりになるだろう。その信念は、人生のありとあらゆる部分にまで浸透している。自分の性格(パーソナリティ)と思っているものの多くが、じつはこの心のあり方(マインドセット=mindset)の産物なのである。あなたがもし可能性を発揮できずにいるとしたら、その原因の多くは”マインドセット”にあると言ってよい。
マインドセット「やればできる!」の研究 p3~4
第1章 マインドセットとは何か
「人間の能力は学習や経験によって伸ばせるものなのか、それとも、石板に刻まれたように変化しないものなのか。」
どちらの説を信じるかによって、未来は大きく変わります。
生まれ家育ちか、遺伝子か環境かではなく、受胎後、その両方がたえず影響を及ぼしあいながら人は成長していきます。
そして、生涯学習し続ける能力や脳の発達の余地は、従来考えられていたよりも大きいことが分かってきています。
人はみな独自の遺伝的資質を持っています。はじめは生得的な気質などに左右されるかもしれませんが、やがて経験や訓練や努力が大きくものをいうようになります。
繰り返しになりますが、どちらの説を信じるかによって、その後の人生に大きな開きが出てきます
ポイント
- 硬直マインドセット(fixed mindset):自分の能力は石板に刻まれたように固定的で変わらないと信じている人は、自分の能力を繰り返し証明せずにいられません。
- しなやかマインドセット(growth mindset):人間の基本的資質は努力次第で伸ばすこと(グロース)ができるという信念を持っています。うまくいかないときにこそ、粘り強い頑張りを見せるのが特徴です。
こうしたマインドセットは「グリット」や「レジリエンス」に強く関係してきます。
自分のマインドセットを知ろう
自分の業績や能力に見当違いな評価を下すのは、硬直マインドセットの人たちであって、しなやかマインドセットの人たちは驚くほど正確な判断を下すことが明らかになりました。
これは理にかなったことで、しなやかマインドセットの人は、能力は伸ばすことができると信じていれば、現時点での能力などを、不本意であったとしてもありのままに受け入れることができるからです。そして、効果的な学習をするためには、現時点の能力についての正確な情報が必要となるからです。
硬直マインドセットの人は、自分が他人からどう評価されるかを気にするのに対し、しなやかマインドセットの人は、自分を向上させることに関心を向けます。
次の知能に関する考えで近いものはどれですか?
- 知能は人間の土台をなすもので、それを変えることはほとんど不可能だ。
- 新しいことを学ぶことができても、知能そのものを変えることはできない。
- 知能は、現在のレベルにかかわらず、かなり伸ばすことができる。
- 知能は、伸ばそうと思えば、相当伸ばすことができる。
上記の1,2は硬直マインドセットで、3,4はしなやかマインドセットです。両方混ざる人はいますが、たいていはどちらか一方に傾きます。
次の性格特性に関する考えで近いものはどれですか?
- どのような人間化はすでに決まっており、それ根本的に変える方法はあまりない。
- 現在どのような人間であっても、変えようと思えばかなり変えることができる。
- ものごとのやり方は変えることができても、人となりを本当に変えることはできない。
- どのような人間かという根本的特性は、変えようと思えば変えることができる。
上記の1,3は硬直マインドセットで、2,4はしなやかマインドセットです。
第2章 マインドセットでここまで違う
能力を固定的に考える世界
・つまづいたらそれでもう失敗
・努力は忌まわしいこと
能力を伸ばせると考える世界
・成長できなければ失敗
・努力こそが人を賢く、有能にしてくれる
硬直マインドセットは人間を学習から遠ざけてしまいます。
修学に対する考えにも影響します。学校は、まだ知らないこと、を学ぶためにあり、やり方を学ぶためにあるのであって、すでに何もかも知り尽くしているから来ているわけではありません。
しなやかマインドセットの人は、潜在能力が開花するには時間がかかることを知っています。
硬直マインドセットの人は、しくじってはならないという切迫感にいつも駆られています。そして、成功すると、誇らしさが優越感にまで膨れ上がります。成功するのは、硬直マインドセットの人が、他人よりも優れている証拠だからです。
しかし、硬直マインドセットの自尊心の裏には、成功すればひとかどの人物だが、失敗したら失敗者だといういアイデンティティにまでなってしまう傾向があります。
しなやかマインドセットの人にとっても失敗はつらい体験ですが、それで失敗者になることはありません。失敗とは、それに立ち向かい、取り組み、教訓を得るべきものになるからです。
失敗を何かのせいにしないかぎり、その人は失敗者ではないと語る。つまり、自分が間違いを犯したことを認めることができれば、そこから教訓を得てまだまだ成長していけるということなのだ。
マインドセット「やればできる!」の研究 p51
そして、硬直マインドセットの人は本気で努力することを怖がります。精一杯やってもダメなら、言い訳のしようがなくなるからである。
パートナーに求める人物像も異なります。
硬直マインドセット
・自分を崇めてくれる人
・自分は完璧だと感じさせてくれる人
・自分を尊敬してくれる人
しなやかマインドセット
・こちらの欠点を良く分かっていて、その克服に取り組む手助けをしてくれる人
・もっと優れた人間になろうとする意欲をかきたててくれる人
・新しいことを学ぶように励ましてくれる人
有名な経営者やスポーツ選手では、次のようになります。
硬直マインドセット
・リー・アイアコッカ
・アルバート・ダンラップ
・ジョン・マッケンロー
しなやかマインドセット
・ダーウィン・スミス
・ルー・ガースナー
・ミア・ハム
・マイケル・ジョーダン
ほとんどの人は両方のマインドセットを併せ持っています。
能力は伸ばせると信じている分野の能力は、実際に伸びていく
マインドセット「やればできる!」の研究 p65
そして、
マインドセットがしなやかならば、必ずしも自身など必要としない
マインドセット「やればできる!」の研究 p73
マインドセットがしなやかであれば、得意だと思っていなくても、果敢に飛び込んでやり抜いてしまえるというのです。
マインドセットをしなやかにするには?
- 困難に打ち勝って何かを学ぶたびに、脳に新たな回路が形成されていく様子を思い浮かべましょう
- 追従者に取り巻かれたくなかったら、あえて建設的な批判を求めるようにしましょう
- その体験から何を学んだか、あるいは学べるか、どうすればそれを成長に結びつけることができるかを考える習慣を身につけましょう
- 失敗から学び、試練を受け止め、努力を重荷と考えずに、何かを生み出す前向きの力と考えて、行動に移しましょう
- いつもやりたいと思っていながら、うまくできる自信がなくて、やらずにいたことを、実行に移してみましょう
第3章 能力と実績のウソホント
偉人たちの、輝かしい業績を生み出す本当の要素とは何なのでしょうか。
マインドセットは成績に影響を及ぼすことがわかっています。
ですが、マインドセットがしなやかならば、だれでも素晴らしい成績を上げることができるのでしょうか。
ベンジャミン・ブルームの調査によると、学習できる環境にある限り、世界中のほとんど誰でも能力を伸ばすことが可能であることが分かったそうです。
ドイツの研究者ファルコ・ラインベルクは教師のマインドセットが生徒にどのように影響するかを比較検討しました。すると、やればできるという信念を持って指導にあたった教師の下では、成績良好になり、生徒の学力差が無くなっていきました。
危険なほめ方
調査によると、下記の傾向が出たそうです。
- 能力をほめると、硬直マインドセットの行動を示すようになる。
- 努力をほめると、しなやかマインドセットの行動を示すようになる。
この調査からは、能力をほめると生徒の知能が下がり、努力をほめると生徒の知能が上がったことになります。
そして、もう一つの事実が明らかになったと言います。
頭がいいという能力をほめてしまうと、自分を賢く見せようとして、高めの嘘の点数を申告するなど、愚かな振る舞いに出るようになりました。
ネガティブなレッテル
型にはまったステレオタイプは、本人が気が付かないうちに心の中に忍び込むようです。
たとえば
- アフリカ系アメリカ人の知能は低いと思われる
- 女性は数学や理科が苦手とされている
しかし、このステレオタイプが喚起されなければ、黒人と白人、女性と男性の試験成績に差は生じないことが多数の研究で明らかになっています。
とはいえ、ステレオタイプの影響を受けるのは、だいたいが硬直マインドセットの人たちです。マインドセットがしなやかならば、こうしたステレオタイプを跳ね返してしまえるからです。
第4章 スポーツ、第5章 ビジネス
・第4章 スポーツ -チャンピオンのマインドセット
・第5章 ビジネス -マインドセットとリーダーシップ
それぞれの章では具体的な人物に焦点を当てて、しなやかマインドセットと硬直マインドセットを対比しています。
スポーツからは、チャンピオンの資質として、練習に打ち込んで、地道に努力を積み重ねて、ここぞという時に底力を発揮する能力を挙げています。
しなやかマインドセットの人たちにとって、
- 成功とは自分のベストを尽くして学んで向上することでした。それはトップアスリートたちの考えとぴったり一致します。
- 失敗をばねにしてさらに前進しようとしました。失敗は教訓を与えてくれるものであり、目を覚ましてくれるモーニング・コールなのです。
- 成功を勝ち取り、維持する方法を責任もって工夫していました。
真のスター選手は「ぼくらは」「わたしたちは」と自分をチームの一員と考え、そうでない選手は「ぼくは」「わたしは」といって自分の偉大さを誇示しようとします。
企業においても、ジム・コリンズが「ビジョナリー・カンパニー2飛躍の法則」で企業を良好から偉大へ飛躍させる要素として、重要なのは企業を率いる指導者のタイプだと述べています。
偉大な企業への飛躍をもたらした指導者たちは、我が強くて自分を売り込みたがる派手なカリスマ的人物ではなく、謙虚で控えめで、たえず答えを探して問い続け、答えがどんなに厳しくてもそれを直視できる人でした。失敗は、自分の失敗であっても正面から受け止めつつ、最後には必ず成功するという確信を失わない人たちだったのです。
つまりは、マインドセットがしなやかな人たちだったのです。人間の成長を信じており、そのことがきわだった特徴でした。
こうした指導者は、自分が人より優れていることを証明しようと躍起にはなりません。そんなことより、つねに向上することを心がけています。
地味で控えめなしなやかマインドセットの人物が企業を飛躍させる真のリーダーであるのに対して、CEOというと決まって我の強い人物をイメージするようになったのは、一端としてアイアコッカがあるようです。アイアコッカが名を遂げたことにより、大衆へのイメージが定着したのです。
こうした点から、硬直マインドセットの有名経営者の自伝等は読まない方が良さそうです。
例えば
- リー・アイアコッカ
- アルバート・ダンロップ
- ケネス・レイとジェフリー・スキリング(エンロンの経営者)
- スティーブ・ケースとジェリー・レビン(AOLとタイムワーナーの経営者)
- ポール・カザリアン(サンビーム・オスターの経営者)
- デーヴィッド・ロックフェラー(チェース・マンハッタン銀行の経営者)
- レイ・マクドナルド(バローズの経営者)
- マーク・シェパードとフレッド・ビューシ(テキサス・インスツルメントの経営者)
モーガン・マッコール「ハイ・フライヤー 次世代リーダーの育成法」によると、人間には成長の妨げになることを好む傾向があり、すでに備わっている強みで、今すぐ劇的な成果を挙げたがるのですが、それでは後に必要な新たなスキルを伸ばせずに終わってしまいます。新しいことに挑戦する努力を放棄したとたん、とてつもない危険に身をさらすことになります。
逆に、しなやかマインドセットの有名経営者の自伝等は読むに値しそうです。
例えば
- アンドリュー・カーネギー
- ジャック・ウェルチ(GEの経営者)
- ルイス・ガースナー(IBMの経営者)
- アン・マルケイヒー(ゼロックスの経営者)
硬直マインドセットの人で集まると、集団浅慮に似た状態に陥ります。集団浅慮は1970年代初めにアーヴィング・ジャニスが広めた言葉ですが、集団の全員が同じような考え方をするようになって、異論を唱えるものや批判的な立場をとる者がいなくなり、結果として集団が非常危険な意思決定をしてしまう現象を指します。
集団浅慮に陥る可能性が高くなるのは、集団のメンバーが自らの才能と優越に慢心しているときで。例えば、エンロンがそうでした。
対照的なのが、ゼネラルモーターズのアルフレッド・P・スローンでした。経営方針が全会一致になるとみると、時間をおいて反対意見が出るのを待つために、次回に持ち越したそうです。
ヘロドトスによると、古代ペルシアでも同じようなやり方が取られたそうです。全員がしらふのときに下した決定を、酒に酔っているときにもう一度検討しなおしたと言います。
ウォーレン・ベニスが優れたリーダーに行ったインタビューによると、人はリーダーに生まれつくのではなく、リーダーになるのであり、外的な条件ではなく、自分自身の力でリーダーになると言います。そして、年齢や環境に関係なく、だれでも自己変容の可能性を秘めています。
ですが、誰でもリーダーになれるわけではありません。CEOですら、ボスにはなれてもリーダーにはなれずにいます。権力をふるうばかりで、自分や従業員や組織全体を変えることができないのです。
モーガン・マッコールによると、才能は生まれつきと思い込んで、成長の可能性を秘めた人材を求めようとしない組織がとても多いと言います。
第6章 つきあい -対人関係のマインドセット
失恋を経験した人に聞くと、硬直マインドセットの人は、とにかく復讐を望みました。
一方でしなやかマインドセットの人たちは、相手を理解し、許し、前向きに進もうとしました。深く傷ついてもそこから何かを学び取ろうとしたのです。
しなやかマインドセットの人たちがまず行おうとしたのは、相手を許すことでした。
ところで、対人スキルが、ひとつの能力なのかわからないことがあります。対人スキルが抜群の人に会っても、それが人間関係の天才とは考えません。
これは、対人スキルの重要性がきちんと理解されていないからです。
マインドセットの視点から、しなやかマインドセットの人たちは、自分も成長するし、パートナーも成長するし、お互いの関係も改善できると信じています。
硬直マインドセットの人は、次のように考えます
1.努力が必要なんて知らなかった
2.問題が起きるのは性格的な欠点がある証拠だ
こうした考えの背景には、言わなくてもわかるはず、まったく同じ考えのはず、という期待や思い込みがあります。でも、そんなことがあるはずがありません。
しなやかマインドセットの人たちは、いつまでも愛ですべてが解決するとは思っていないので、良い関係を長く続けるためには、いずれ生じる意見の齟齬を努力で乗り越えていく必要があると考えます。
人間関係は、育む努力をしないかぎり、ダメになる一方で、決して良くはなりません。
硬直マインドセットの人にありがちなのが、人間関係がうまくいかない場合には、相手にせいにしやすいのです。硬直マインドセットの人にとっては、人を許すということが、とても難しいのです。相手のせいにしないと、自分が責任を背負う羽目になるからです。
内気というのも、ある意味で、裏返しと言えます。他人に自尊心を踏みにじられるのを恐れている人たちだからです。
マインドセット内気の関係は、硬直マインドセットの人の方が内気になりやすいということです。
さらに詳しく調べると、内気な性格が人付き合いの妨げになるのは、硬直マインドセットの人の場合だけでした。
しなやかマインドセットの人たちは、内気であっても人間関係の妨げになることはありませんでした。
内気でもマインドセットがしなやかな人は、人との交わりをチャレンジと受け止め、初対面の人との出会いを積極的に受け入れたのです。
内気でもマインドセットがしなやかな人は、内気さを自分でコントロールできます。
人をいじめるという行為は、硬直マインドセットと大いに関係があります。
いじめの根っこになるのは、人間には優れた者と劣った者がいるという考えです。
いじめを受けた者がどう反応するかも硬直マインドセットのが関係します。いじめを自分に対する評価だと感じると、人は自分を卑下したくなるのです。
研究では、ごく普通の人たちが、冷たい仕打ちを受けたことに対して激しい復讐心を抱いていることが分かりました。
一方で、しなやかマインドセットの場合は、いじめを自分に対する評価と受け止めるより、いじめる側の心の問題としてとらえる傾向がありました。
とはいえ、もともとマインドセットがしなやかな子でも、長いこといじめを受けているうちにマインドセットが硬直化していくこともあります。
学校全体のマインドセットを変えていくことで、いじめを無くすことができます。
優劣をつけあうような雰囲気を排し、助け合って自分を高めていこうとする気風を作り出すことによって、いじめを劇的に減らしてる学校もあります。
ノルウェーのダン・オルウエーズの研究に基づいてコンサルタントのスタン・デーヴィスが開発したプログラムは効果を上げています。
自分は、努力してどんどん良くなっている、と感じるように仕向けるのです。
第7章 教育 -マインドセットを培う
ほめ方 頭の良さをほめてはいけない
頭の善し悪しや才能の有無にこだわるのは硬直マインドセットですので、親がいつもそういうことを口にしていると、子供はそれに取りつかれてしまいます。
何百人もの子供を対象に、7回にわたる実験を行った結果は明快でした。
頭の良さをほめると、学習意欲が損なわれ、ひいては成績も低下したのです。
ということは、知的才能や才能を愛でるほめ方だけは避けた方がよいということです。子供からみれば両親は、自分がどれくらい頑張ったかではなく、自分の頭の良さや才能が自慢なんだと思ってしまうからです。
しなやかな視点にたったほめ方はいくらでもあります。
うまい方法で粘り強く勉強や練習を重ねて何かを成し遂げたことをほめればいいのです。
また、問いかけの仕方を工夫すれば、子供努力や選択を評価する気持ちを伝えることができます。
子供の研究に生涯をささげたハイム・ギノットも、ほめるときは子供自身の特性をではなく、努力して成し遂げたことをほめるべきだ、という結論に達しています。
ところが、わが子をほめるときは、しなやかな観点でほめているのに、よその子の批評するときの言いようで、台無しにしている親もいます。
優れた教師
親だけでなく、教師も気をつけなければなりません。
テストや発表会を前にして緊張している子供を安心させるためには、これまでの勉強や努力をしてきたことを評価し、自分の力が出せなくても、それだけで評価するわけではないことを言えばよいのです。
失敗した時には、まやかしの誉め言葉で慰めることではなく、本当のことを告げ、失敗から何を学ぶべきか、将来成功を勝ち取るためには何をしなければならないかを教えるのです。
到達基準(努力目標)を下げれば、生徒に成功体験をさせ、自尊心を高め、学力を伸ばすことができる、と考える教育者は少なくありません。
ですが、これは子供の頭の良さをやたらほめて、やる気を引き出そうとするのと似た考えで、効果はありません。
おざなりにやってもほめてもらえると高をくくっている学力の低い生徒を増やすだけです。
優れた教師は、知力や才能は伸ばせると信じており、学ぶプロセスを大切にします。
そして、優れた教師は、できる生徒に対してだけでなく、すべての生徒に対しても高い基準をもうけます。
ベンジャミン・ブルームの調査によると、世界的なピアニストや彫刻家、水泳選手、テニス選手、数学者、神経学者は、ほとんどが驚くほど温かくて度量の大きい教師に最初の手ほどきを受けていたのです。
けっして基準を下げたりはしませんが、生徒に評価を下すのではなく、信頼しあえる雰囲気で生徒を包み込み、教え導いていこうというメッセージを発している教師たちです。
しなやかマインドセットの教師は、特に献身的なわけではありません。学ぶことが大好きなのです。そして教えることが最高の学びの場であり、教えることを通じて、学び続けているのです。
第8章 マインドセットをしなやかにしよう
しなやかマインドセットの根底にあるのは人は変われるという信念です。
マインドセットが硬直していると、内なる声は自分や他人の品定めばかりするようになります。
マインドセットがしなやかであれば、内なる対話で問題にするのは、自分や他人の評価ではありません。あくまでも学習や建設的行動に向けられます。この体験から何を学び取ることができるか、どうすれば自分を向上させることができるかに向けられるのです。
認知療法は、極端な判断をしないで、穏当な考え方ができるように導くことにあります。事実に即した穏当な判断ができるようにするのが認知療法ですが、硬直マインドセットと品定めの世界に陥っている限り、認知療法で救い出すことはできません。
脳は筋肉と同じく、使えば使うほど性能がアップします。新しいことを学ぶと脳が成長して、頭が良くなっていくことが科学的に証明されています。
マインドセットによって、自分の脳は自分で作っていくものだと、硬直マインドセットの呪縛から解き放つことができます