マインドフルネスの入門書
マインドフルネスの本
著者はグーグルの創成期のエンジニアとして働き、やがてエンジニアの枠をはみ出て、マインドフルネスをベースにしたSIY(サーチ・インサイド・ユアセルフ)という研修プログラムを立ち上げ、同名の本はベストセラーとなりました。
随所に科学的な根拠を盛り込まれていますが、別角度からマインドフルネスを知りたい方は、次の本も参考になります。
多くの研究で示されているのは、人は幸運にも不運にも順応する力が高いということです。
しかも、一人一人の幸福感のレベルにはあまり変化がなく、大きな不運や幸運移遭遇しても、いつもレベルの幸福感に落ち着くと考えられているそうです。
1978年の研究では、その人の持つ平均的なレベルの幸福感に戻るという結果が出ています。
1996年には双子も対象にした研究が行われ、幸福感の約半分は遺伝的要素に関係していると報告されました。
社会経済的地位や教育、家族の収入、既婚未婚、信仰心など、遺伝的要素以外の要因が生み出す幸福感の違いはせいぜい3%くらいだそうです。
では、遺伝ですべてが決まってしまうのかというと、そういうわけではないのではないか、陽気さや落ち着きといった心の資質もトレーニングによって高めることができると、著者は考えています。
著者が出会ったのが「瞑想」でした。「瞑想」は、トレーニングを積めば、人生を変えるような心の変化を意図的に起こせ、オンデマンド(=要求に応じて)でJOY(=喜び)にアクセスできるようになります。
マインドフルネス瞑想
「瞑想」の中でも特に関係するのが「マインドフルネス瞑想」です。数ある瞑想法の一つです。
マインドフルネスとは「意図的に、批判・判断を加えずに、今この瞬間に注意を向ける」ことです。
著者が「瞑想」に出会って、2~3年が過ぎると、基本幸福度が大きく上がったそうです。
「今」が幸せでいられるためには、心のトレーニングと、毎日の実践が必要となります。
いとも簡単にJOYを引き出せるダライ・ラマ14世や、2007年の脳波測定で極めて幸福な状態でいることが分かったチベット仏教僧のマチウ・リカールなども長いトレーニングのおかげでそうなっているのです。
では、効果を実感できるようになるためには、どれくらいの時間が必要なのでしょうか?
ある研究報告によれば、50時間に満たなくても効果があったそうです。
2007年に報告された中国人科学者のY・Y・タンの研究によれば、100分で測定可能な変化が現れたそうです。
さらに補強する研究結果が2013年に出されました。
1日10分のマインドフルネス瞑想を2週間、合計140分行ったところ、アメリカの大学院進学適性試験(GRE)の成績が目に見えて上がったそうです。
他にもあります。ベテランの瞑想者がマインドフルネスを8時間実践すると、遺伝子発現(エピジェネティック)のレベルで変化が生じたそうです。具体的には、炎症を促進する遺伝子の発現が減り、ストレスに満ちた状態からの肉体的回復が早まる可能性があるそうです。
プロレベルになるために、マルコム・グラッドウェルの1万時間という時間は有名ですが、瞑想においても同様のことが言えそうです。
とはいえ、瞑想を極めるのは時間がかかりますが、習うのはとても簡単で、短期間で人生が変わるほどの変化が始まります。
ひと呼吸
それでは、改めて、効果を実感できるようになるためには、どれくらいの時間が必要なのでしょうか?
著者は「ひと呼吸」だと言います。
ゆっくりと深呼吸を一つしますが、その呼吸にすべての注意をやさしく集めます。
マインドフルなひと呼吸を実践するいちばんの利点は、簡単で時間がほとんどかからず、いつでもどこでもできるからです。
そして、その性質から、簡単に習慣にできます。
「習慣の力」の著者チャールズ・デュヒッグによると、習慣は「きっかけ⇒ルーティン⇒報酬」の3つのサイクルから成り立つそうです。
おススメなのは、何かをまっているときに、いつでもマインドフルなひと呼吸をする、ということです。
あらゆる待ち時間を利用するというのです。
そして、ひと呼吸から上手に拡大していくのです。
5分だけ座りましょう。
最初の3分は、心を落ち着かせる3つの方法を1分ずつためし、残り2分は3自由に取り組みます。
リラックスして、しかもすきのない状態になれる姿勢で座ります。目は閉じても、開けてもいいです。
アンカリング(1分間)…呼吸か身体など、五感のどれかで感知出来て、注意がそれたか確認できる対象に注意をむけます。
レスティング(1分間)…心を休めます。
ビーイング(1分間)…する(doing)から、ある(being)に注意を移します。ただ座ります。
フリースタイル(2分間)…3つの方法から気に入ったものを行いましょう。どれか一つでもいいですし、途中で切り替えても構いません。
このエクササイズを少なくとも2~3回やれば、自分のお気に入りの方法がわかるでしょう。
それが自信の心を落ち着ける根本的な方法になります。
選択を間違っていても気にしなくて構いません。そもそも間違いなんてありませんし、いつでも別の方法に変えていいのです。
心が落ち着くエクササイズは最低1日1回1分以上することをお勧めします。
瞑想について最も誤解されていることが、無心になるということですが、瞑想は考えを抑圧することではなく、心をあるがままにして、好きなだけの時間、考えが自由に浮かび上がるままにするものです。
瞑想を続けていれば、心は深く落ち着いて、思考の流れはゆっくりとなり、最後に心は静かな湖のようになります。
瞑想においてエネルギーを上手く管理することは、エネルギー、リラクセーション、冷静な観察、の三要素のバランスをとることです。
鍵を握るのは、瞑想のあいだ、ただ自分自身を見つめるという冷静な観察です。
第四章からは心をJOYに傾け、オンデマンドでアクセスする方法を学びます。
心をJOYに慣らし、JOYのひとかけらを感知する訓練をしましょう。かすかな気配であったとしても、そこに喜びがあることに気づきましょう。
JOYを湧き上がらせるシンプルなツールがあります。笑顔、です。
顔の表情は、感情の状態を表します。因果関係は双方向で、顔の表情が感情に影響を与えることがあります。これを発見したのが、心理学者のポール・エクマンです。
笑顔を作ることで、効果的にJOYを引き出せるのです。JOYには様々な風味があり、源があります。
日常でJOYを感じ取ることを邪魔するものはいくつもありますが、最大の障害が、惰性化です。
惰性化を克服する方法は3つあります。
1.JOYに注意を向けたりして、注意力を養うこと
2.感謝すること
3.いつか死ぬ運命を強く意識すること
最後の陰鬱なテーマが幸福と関係あるというのは驚きですが、ある研究では、自分の命に残された時間が少ないと思えるほど、日常の経験から幸せを感じやすくなり、それによって幸せになれるそうです。
「終わりに気づく」エクササイズは、物事を近くするやり方を変えます。消えていくことを繰り返し見ることで、無常の本質を理解するようになります。始まりがあるものは、必ず終わりがある、ことに気づくのです。
JOYにオンデマンドでアクセスする方法を学びましょう
心の三つの崇高な状態、愛情に満ちた優しさ、深い思いやり、利他的な喜び、を高めることでJOYにオンデマンドでアクセスできるようになります。
10秒間の簡単なエクササイズがあります。人の幸せをただ願うだけ。そうすることで、愛情に満ちた優しさからくる喜び、つまり優しい気持ちを与える側にいることで、自分自身を幸せにするのです。
このJOYの源はとても健全です。神経科学がこれまで測定してきた中で、思いやりはもっとも幸せな精神状態であることがわかっています。
愛情に満ちた優しさをパーリ語ではメッタ(metta)といいます。友達を意味するミッタ(mitta)と語源が近いため、メッタは愛情に満ちた友情と訳されることもあります。
感情の近い敵と遠い敵を知ることも必要です。
- 愛情に満ちたやさしさ ⇒ 【近い敵】条件付きの愛、中毒的な愛情 ⇒ 【遠い敵】悪意
- 深い思いやり ⇒ 【近い敵】哀れみ、絶望 ⇒ 【遠い敵】無慈悲
- 利他的な喜び ⇒ 【近い敵】不健全な喜び、自己本位の喜び、 ⇒ 【遠い敵】嫉妬
- 平静さ ⇒ 【近い敵】無関心、距離を置くこと ⇒ 【遠い敵】動揺
苦しみに対処することを学ぶのも重要です。
3つのステップがあります。注意のステップ、情動のステップ、認識のステップです。
ステップ1 感情の痛みに対処する:注意のステップ
第一ステップは、心を落ち着けることです。苦しみがどれほど大きくても、状況がどれだけ悲惨でも、何よりもまず、つとめて心を落ち着けましょう。
ステップ2 感情の痛みに対処する:情動のステップ
このステップは2つのパートに分かれています。
一つは、感情の痛みを感じている中でJOYを経験することです。
もう一つが、感情の痛みそのものをすすんで経験することです。
痛みを伴う感情に対処するには、4つのステップがあります。
1.感情が単に体の中で感じる不快な感覚にすぎないことにクリアに気づくことです。
2.嫌悪感が演じる中心的な役割を理解することです。嫌悪感は苦痛の近因です。
3.嫌悪感の一番の対抗手段となる愛情に満ちた優しさを使うことです。
4.嫌悪感に対する第二の対抗手段となる冷静な観察を使うことです。
ステップ3 感情の痛みに対処する:認識のステップ
物事を全体的に把握するスキルを使います。必要なのは、客観性と深い思いやりです。