- 現在の状況を理解するうえで重要な一冊
- 1章 第四次産業革命とは何か
- 2章 革新の推進力とメガトレンド
- 3章 経済、ビジネス、国家と世界、社会、個人への影響
- ディープ・シフト
- シフト1 体内埋め込み技術
- シフト2 デジタルプレゼンス
- シフト3 視覚が新たなインターフェイスになる
- シフト4 ウェアラブル・インターネット
- シフト5 ユビキタスコンピューター
- シフト6 ポケットに入るスーパーコンピューター
- シフト7 コモディティ化するストレージ
- シフト8 インターネット・オブ・シングスとインターネット・フォー・シングス
- シフト9 インターネットに接続された住宅
- シフト10 スマートシティ
- シフト11 意思決定へのビッグデータ利用
- シフト12 自動運転車
- シフト13 AIと意思決定
- シフト14 AIとホワイトカラーの仕事
- シフト15 ロボット技術とサービス
- シフト16 ビットコインとブロックチェーン
- シフト17 シェアリング経済
- シフト18 政府とブロックチェーン
- シフト19 3Dプリンタと製造業
- シフト20 3Dプリンタと人間の健康
- シフト21 3Dプリンタと消費財
- シフト22 デザイナーベビー
- シフト23 ニューロテクノロジー
現在の状況を理解するうえで重要な一冊
邦訳が出た2016年に読んで、大変面白かった。
現在の状況が「第四次産業革命」に該当するのかどうかは、後世の評価なのだが、現状の急激な技術進歩を言い表す言葉として捉えればよい。それほどに、本の一昔前と技術革新のスピードと各所に与える影響が広範囲で深化しているということである。
最も興味深い指摘は、先端的技術のブレイクスルーが大量に同時発生している、と言う点である。
イノベーションは初期段階であったとしても、技術の融合が行われ、互いを強化、増強しながら、開発は変曲点に達している。
あらゆる産業に渡る根本的転換に直面し、社会では働き方や、コミュニケーションの方法、自己表現や学習、余暇についてもパラダイムシフトが進行している。
本書は第四次産業革命の入門書を目指している。
現在起きている変化は、その規模、スピード、範囲のいずれから見ても歴史的なものだ。
第四次産業革命 ダボス会議が予測する未来 p10
最近の状況を第3次産業革命の一部に過ぎないと考える学者や専門家がいることも知っている。
しかし、3つの理由から、第四次産業革命と呼ぶにふさわしい革命が進行中であると私は確信している。
第四次産業革命 ダボス会議が予測する未来 p11
その3つというのは
1.速度
線形ではなく、指数関数的ペースで展開している。
新しいテクノロジーがさらに新しいテクノロジーを生み出している。
2.拡大と深化
デジタル革命の上に成り立っており、空前のパラダイムシフトをもたらしているテクノロジーを結びつけている。
3.システムへの影響
社会全体の全てのシステムの転換を伴う
本書の内容の大半は、世界経済フォーラムが進めているプロジェクトとイニシアティブに基づくもので、世界経済フォーラムの将来の活動を方向付ける枠組みを提供するものである。
本書の出る前年 2015 年 9 月 25 日第 70 回国連総会で SDGs(エスディジーズ:Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)が採択された。
SDGsが採択された年を境にして、本書を含め、重要なコンセプト考え方が多方面で発表されたのは興味深い。
下記の本と一緒に読むと面白いと思います。
- 「ワーク・シフト」リンダ・グラットン
- 「マッキンゼーが予測する未来―近未来のビジネスは、4つの力に支配されている」リチャード・ドッブス、ジェームズ・マニーカ、ジョナサン・ウーツェル
- 「2030年:すべてが「加速」する世界に備えよ」内容の要約と紹介:ピーター・ディアマンディス, スティーブン・コトラー
1章 第四次産業革命とは何か
- 第一次産業革命 1760年代~1840年代 蒸気機関の発明と鉄道建設により機械による生産の到来を告げた
- 第二次産業革命 19世紀後半~20世紀初頭 電気と流れ作業の登場により大量生産を可能にした
- 第三次産業革命 1960年代~ 半導体、コンピューター、インターネットによって推進されたことから、コンピューター革命あるいはデジタル革命と呼ばれる
- 第四次産業革命は21世紀に入ってから始まり、デジタル革命の上に成り立っている。
特徴は、これまでと比較にならないほど偏在化しモバイル化したインターネット、小型で強力な低価格なセンター、AI、機械学習である。
第四次産業革命の範囲は広く遺伝子配列解析からナノテクノロジー、再生可能エネルギー、量子コンピュータの分野でブレイクスルーの波が同時に起きている。
これらのテクノロジーが融合し、物理的、デジタル、生物学的各領域で相互作用が生じている。
懸念点が2つある。
1.経済、社会、政治のシステムの考え直しが必要である
各分野においてリーダーシップ不足と変革への理解不足がある。
イノベーションの普及管理と混乱防止のための制度的枠組みが不十分か全く存在していない
2.創出される機会と問題に関する建設的な構想もなければ、反発を避けるための説明もない
富を築くのに必要な従業員が10年、15年前と比較してはるかに少なくて済むのは、デジタル事業の限界費用がゼロに近づきつつあるからである。
多くの新興企業が提供しているのは「情報材」であり、保管、輸送、複製コストが事実上ゼロである。
また、ユニークなのは、多くの専門分野や発見の調和や統合が増大していることである。
大きな問題として特に懸念されるのが、不平等の悪化である。
大きな受益者は、知的資本または物的資本の提供者であるイノベーターや投資家、株主である。これにより、労働に依存する人々と資本を所有する人々の間に、富の差が拡大していることが分かる。
そして、これは実質所得が一生増えないことや子供たちの暮らしが自分たちより良くならない可能性があると確信した多くの労働者の幻滅感の広がりの説明にもなる。
一握りの人々に利益と価値が集中する状況は、プラットフォーム効果によりさらに悪化している。
少数の強力な独占的プラットフォームへの集中というプラットフォーム効果の利点は消費者には明らかである。価値と利便性が高く、コストは低い。
価値と権力が少数の人々に集中しないようにするには、協調的イノベーションをオープンにし、機会を広げることで、プラットフォームの利点とリスクのバランスを見つけなければならない。
2章 革新の推進力とメガトレンド
新たな変化やテクノロジーには共通する一つの特徴がある。
それはデジタル化と情報テクノロジの浸透力を活用していることである。
物理的なメガトレンド
- 自動運転車
- 3Dプリンタ
- 先進ロボット
- 新素材
デジタルなメガトレンド
- IOT(インターネット・オブ・シングス)
- ブロックチェーン
- オンデマンド経済(シェアリング経済)
オンデマンド経済は根本的な疑問を提起している。
所有するに値するのは、プラットフォームなのか資産そのものなのか。
「世界最大のタクシー会社であるウーバーは、車両を所有していない。世界で最も人気のあるメディアを所有しているフェイスブックは、コンテンツを作っていない。最も時価総額の高い小売店であるアリババは、在庫を持たない。さらに、世界で最も多くの宿泊施設を提供しているエアビーアンドビーは、物件を所有していない。」
生物学的なメガトレンド
- 生物学分野(特に遺伝学)のイノベーション
- 合成生物学
- プレシジョン医療
異なるテクノロジーの融合として、3Dプリンタとゲノム編集は一例である。
組み合わせたバイオプリンティングは組織の修復と再生を目的としている。
すでに皮膚、骨、心臓、血管組織の作成に利用されている。
ただし、生物学の領域には、社会規範と適切な規範の整備が最も大きな問題である。人間である証とは何か。
2015年9月に公表された世界経済フォーラムの報告書に、今後10年以内に起きると予想される
デジタルでハイパーコネクティブな世界を形成する「21のティッピング・ポイント」が明らかにされた。
「ソフトウェアと社会の未来に関するグローバル・アジェンダ・カウンシル」の調査によって明らかにされたものである。
21のティッピング・ポイント
- 2018年までに人口の90%が、無制限の無料データストレージを利用するようになる。
- 最初のロボット薬剤師が、2021年にアメリカで登場する。
- 2022年までに、インターネットに接続するセンサー数が1兆個に達する。
- 2022年までに世界の人口の10%が、インターネットに接続した衣服を着るようになる。
- 2022年までに、3Dプリンティングでつくられた最初の自動車が生産体制に入る。
- 初のインプラント型携帯電話が、2023年に商用化される。
- 2023年までに、国勢調査に代えてビッグデータ技術を導入する最初の国が現れる。
- 眼鏡の10%が、2023年までにインターネットにつながる。
- 世界の人口の80%が、2023年までにオンラインのデジタルプレゼンスを持つようになる。
- ブロックチェーン経由で税金を徴収する最初の国が、2023年に登場する。
- 2023年までに、世界の人口の90%がスーパーコンピューターをポケットに携帯するようになる。
- 2024年までに、インターネット接続が基本的人権になる。
- 2024年までに、3Dプリンティングでつくられた最初の肝臓の移植が行われる。
- 2024年までに、一般家庭のインターネット・トラフィックの50%以上が電化製品やデバイスに由来するものになる。
- 消費者製品の5%が3Dプリンティングで製造されるようになる。
- 2025年までに、企業監査の30%を人工知能が実施するようになる。
- カーシェアリングの利用が世界的に増加し、2025年までに自家用車を上回る。
- 2026年までに、自動運転車がアメリカの全自動車の10%を占めるようになる。
- 2026年にAIマシンが初めて企業の取締役会に加わる。
- 2026年までに、交通信号機がまったくない人口5万人以上の都市が登場する。
- 2027年までに、世界GDPの10%にあたる資金がブロックチェーン技術によって蓄えられるようになる。
3章 経済、ビジネス、国家と世界、社会、個人への影響
進行中の技術革新の影響はほぼ予測不可能である。
経済、ビジネス、政府、国家・社会、個人への潜在的に影響を与えるもののひとつにエンパワーメント(権限移譲)がある。
既存の政治的、経済的、社会的モデルが破壊され、分散化した権力体系に移行する。
経済への影響
2008年の金融危機まで世界経済は年率約5%で成長していた。以後は低い成長率で停滞している。
世界的な成長鈍化の原因は多くの説が存在するが、技術進歩と関連性が高い「高齢化」と「生産性」の2点をみる。
高齢化
世界人口は72億人から2030年までに80億人、2050年までに90億人に達すると予想されている。(「ファクトフルネス」では 世紀末を迎えるころにはグラフは横ばいとなり、人口は100億~120億人で安定すると予想されている。)
総需要の増加につながるはずだが、同時に高齢化という劇的な人口動態も生み出す。
世界の多くの地域で出生率が低下しており、高齢化の影響はどこでも受ける問題である。
高齢化は経済問題である。高齢者を労働力とすべく大幅な定年の引き上げを行わない限り、労働年齢人口の減少と扶養高齢者の増加が同時に起きる。
高額商品の購入は減少し、快適な老後の維持のためリスクは取らないので、蓄えを引き出すようになり、貯蓄率と投資率が減少する。
高齢化社会では技術革命が生産性の大幅な向上をもたらさない限り、成長は鈍化する運命である
先進国では今日生まれた子供の4分の1以上が100歳まで生きると予想されている。
労働年齢人口と、定年、個人の生活設計といった問題を再考する必要がある。
生産性
過去10年の技術革新やイノベーションにもかかわらず、世界の生産性は低迷したままだった。
生産性パラドックは現代社会の経済的謎の一つであり、納得のいく説明がまだされていない。
生産性は長期的な成長と生活水準の向上の最も重要な決定事項である。
それが低い状態であると、長期的成長も生活水準向上のいずれも享受できないことになる。
根本的な議論の一つに、生産性の計算の問題がある。
第四次産業革命によって限界費用がゼロに近づいているサービスがあるため、家庭や職場へもたらす価値が計測不能となっている。
あるサービスで提供された価値と、国家の統計で測定された成長との間に矛盾が生じている
雇用
新たな技術が労働の性質を劇的に変える。あらゆる産業と職業で起きる。
技術がもたらす混乱と自動化は労働の代わりに資本を用いるという破壊効果があり、労働者は失業者になるか、スキルの再配分を余儀なくされる
破壊効果は新たな製品やサービスに対する需要を増価させ、新たな職業、ビジネス、産業の創出につながる資本的効果を伴う。
技術革新は一部の仕事を奪う一方で、別種の新たな仕事を生み出す。
労働代替
米経済国勢調査によると、情報技術の革新とその他の破壊的技術は、製造にさらなる労働力を必要とする製品を生み出すのではなく、既存労働者を代替して生産性を向上する傾向にある。
オックスフォード大学のカール・ベネディクト・フライと機械学習を専門とするマイケル・オズボーンによると、
米国における全雇用の約47%が、今後10~20年に消滅するリスクがあるという。
労働市場の2極化に導き、高収入の認知的・創造的職業と、低収入の単純労働では雇用が増えるが、中所得の機械的・反復的職業は大幅に減少する。
スキルに対する影響
イノベーションや競争力、成長の妨げとなるのは資本の有無ではなく、熟練労働力不足になる可能性がある。
開発途上国に対する影響
危険なのは国家間と国内での勝者総どりの力学が展開されることである。これは社会的緊張と対立を悪化させ、不安定な世界を生み出す。
労働の本質
労働者と企業の関係が持続的なものから一連の取引になる世界は15年前にダニエル・ピンクが「フリーエージェント社会の到来」で語った。
オンデマンド経済により、「ヒューマン・クラウド」を活用した仕事が増えてきている。
ニューヨーク大学のアルン・サンダララジャン教授は、一部の労働者はさまざまな仕事をこなして収入を得る社会になるかもしれない、と述べている。
「ヒューマン・クラウド」は登場したばかりだが、暗黙のオフショアリングを引き起こしている。
直面しているのは、変わりゆく労働力と進化する労働の性質に合致した新たな社会契約と雇用契約の考案である。
ヒューマン・クラウドによる搾取というマイナス面を抑えないと、ロンドン大学のリンダ・グラットン教授が「ワーク・シフト」で述べた、社会における細分化、隔絶、排斥レベルの上昇をもたらす可能性がある
目的の重要性
境界が失われ、願望が変化している世界では、ワークライフバランスだけでなく、仕事と生活の調和のとれた一体化を求めている。
だが、このような充足感を得られる人は少数派に留まるかもしれない。
企業への影響
S&P500企業の平均寿命が60年から18年に短くなった。
デジタル能力によって新規参入企業が市場を支配するに要する時間が短くなってきている。
あらゆる産業に次の4つの影響を及ぼす。
- 顧客の期待が変化する
- データによって製品の質が向上し、資産の生産性が改善される
- 企業が新しい形の協力関係の重要性を理解し、新たなパートナーシップを形成する
- 経営モデルが新たなデジタルモデルへ移行する
今後、消費者トレンドはミレニアル世代によって決められる。
「いますぐ」の世界で生きている世代にとって、企業はどこでも自社や顧客、クライアントが存在する場ならリアルタイムでの対応が求められる。
新たに出現する経営モデルによって、新しい必須スキルや適切な人的資本の獲得・維持を目的に人材と文化の再考を余儀なくされる。
- 労働者には新たなスキルが必要となり、プロセス改善や文化の改革が必要となる。
- 企業は「人材主義」という概念へ適用しなくてはならない。
- 競争力向上にとって最も重要で、新たに出現してきた要因の一つである。
デジタル、物理的、生物学的な要素を融合可能な企業は混乱していたとしても成功することが多い
大半の業界でデジタル技術によって製品とサービスが融合され、その過程で伝統的な業界間の壁が消滅している。
生き残り、繁栄する企業は、イノベーションにおける優位性を維持し、継続的に磨いていく必要がある。
産業も企業も進化論的なプレッシャーに絶えずさらされ、「常にベータ版」という哲学が広まるだろう。
これは世界中で起業家や社内起業家が増加することを示唆している。
国家と世界への影響
政府機関
モイセス・ナイムが「21世紀とは権力を獲得するに易く、使うに難く、失うは容易な時代」と評した。統治がこれまで以上に難しくなっているのは疑いの余地がない。
デジタル時代の到来で、公権力を守ってきた多くの障壁は弱体化し、大衆の要求が増し、政府機関はさらに非効率または非能率的な存在になった。
ウィキリークスの一件は、新たなパワーパラダイムの非対称性と付随する信用の低下を示している。
過去の産業革命同様に、規制が新技術の適応と普及にあたって重要な役割を果たすだろう。だが、規制当局は前例のないレベルの困難に直面している。
技術進歩の多くは、現在の規制の枠組みでは適切に捉え切れていない。技術進歩を支援するためには、機動的なガバナンスが必要である。
必要なのは、政策決定の多さや速さではない。回復力のある枠組みを生み出せる規制と法整備のエコシステムである。
イノベーションを可能にする規制
新たなデジタル経済の中心となるカテゴリーや分野で主流となる国際基準の確立に成功した国や地域は多大な経済的、金銭的利益を得られる。
今後はイノベーションできる経済かどうかが重要となる。高コスト/低コスト、新興国/先進国といった区別は意味がなくなる。
革新の中心地としての地域と都市
一部の国や地域で相対的優位性が自動化の影響で突如として陳腐化する可能性がある。
このシナリオだと、現在繁栄している一部の国や地域の経済が壊滅的状態になる可能性がある。
都市(イノベーションエコシステム)の継続的成長のない国や地域は反映しない。歴史的にも年は経済成長、繁栄、社会的発展の原動力だった。
今日では、世界人口の半数以上が中都市から巨大都市を含む都市部に住んでおり、世界全体の都市生活者の数は増え続けている。
そのため、世界各国の都市や国々は、第四次産業革命が依存する情報通信技術(ICT)へのアクセス、活用に力を入れることが重要となる。
しかし、世界経済フォーラムの「Global Information Technology Report 2015」で指摘されるように、ICTインフラは考えるほど普及していない。
国際安全保障
第四次産業革命は国家間の関係や国際安全保障の性質に大きな影響を及ぼす。
非常に危険なのは、不平等が拡大するハイパーコネクティビティ社会では分離、差別、社会不安を増加させ、暴力的過激主義の台頭を促す可能性がある。
ハイパーコネクティビティ社会では不平等が拡大する社会でもある。労働市場における大変化により不平等は悪化する。
一方で、ハイパーコネクティビティ社会では違いを受け入れて理解するという一致点を見出せる可能性を秘めている。
社会への影響
社会にとって、伝統的な価値体系が持つ豊かな面を利用しつつ、新しい現代性を吸収し対応していくかが問題となる。
南カリフォルニア大学の教授マニュエル・カステルは 「大きな技術変化に直面した人々や企業、組織は常に変化の重大さを感じるが、しばしばそれらに圧倒され、それらがもたらす影響に対してまったくの無知になる」
不平等と中流階級
ロボットやアルゴリズムにより、労働力ではなく資本の必要性が高まる一方で、投資には大きな資本をあまり必要としなくなっている。
一方で、労働市場では求められる技術的スキルセットに偏りが生じている。
こうしたことにより、技術は高所得国の人口の大半に収入の停滞、あるいは減少をもたらす主な理由とみなされる。
クレディ・スイスの「グローバル・ウェルネス・レポート2015」によれば、世界の全資産の半分は、世界人口の1%にあたる富裕層が所有している。一方で、世界人口の下位半分の資産を合計しても世界全体の1%未満となっている
OECDの報告では加盟国の人口10%にあたる富裕層の平均所得は、最下層10%の約9倍となっている。
大半の国々において不平等は拡大している。
この拡大は社会にとって大きな問題である。
英国のリチャード・ウィルキンソンとケイト・ピケットは「平等社会」で不平等な社会は、暴力が悪化し、受刑者が増え、精神疾患や肥満が増加し、平均余命は短くなり、信頼の低下につながる傾向があるとデータで示している。
一方で、平均所得を調整した、より平等な社会は、子供の健康水準が向上し、ストレスや薬物使用が少なくなり、乳児死亡率の低下がみられる。
他の研究でも、高いレベルでの不平等の拡大は差別を増加させ、子供や若年成人の教育成果を悪化させるとしている。
今日、中流階級の仕事は、中流階級のライフスタイルを保証できなくなっている。
過去20年で中流階級のステータスとなっていた教育、健康、年金、持ち家はインフレによって悪化している。米国と英国では、教育が贅沢品のような位置づけになっている。
コミュニティ
デジタル化の影響の一つに「自分中心型」社会の出現がある。
コミュニティへの帰属と言う概念は場所や仕事、家族ではなく、個人の計画や価値観、興味で定義されるものになっている。
新たなデジタルメディアが個人や集団が社会やコミュニティの枠組みを作る際の推進力となっている。
世界経済フォーラムのレポート「Digital Media and Society」にあるように、デジタルメディアは新しい方法で「個対個」「個対多」のつながりを生み出している。
個人への影響
プライバシーの意味、所有の概念、消費パターン、労働と余暇に費やす時間、キャリア形成、スキル開発など、個人の在り方に変化をもたらす。
システムの変化の入り口にある中で、変化を受容する者と抵抗する者という世界の二極化の進行を目撃することになる。
このことは社会的不平等を超える不平等を生み出し、これまでに見たことのない階級闘争や衝突を生み出す恐れがある。
潜在的な分裂と緊張状態は、デジタル世界しか知らない者と、適応が必要な者との世代間格差によって悪化する。
これは多くの倫理的問題を生み出すことになる。
第四次産業革命が生み出したイノベーションの数々は「人間」を再定義している。
ハーバート・サイモンは1971年に「豊富な情報は注意力の貧困につながる」と警告していた。事態は当時よりはるかに悪化している。
旅行エッセイストのピコ・アイヤーは「注意散漫の時代では、注意を払うことほど贅沢なことはない。そして動き続ける時代では、じっと座っていることほど重要なことはない」と述べている。
公開および個人情報の管理
最大の問題の一つがプライバシーである。ハーバード大学のマイケル・サンデルは「私たちはこれまでにも増して、日常使う多くのデバイスが持つ便利さとプライバシーを自らの意思で交換しているように見える」と述べている。
ディープ・シフト
2015年9月に「Deep Shift – Technology Tipping Points and Social Impact」が公表された
シフト1 体内埋め込み技術
- 電子タトゥー
- スマートダスト(砂粒よりも小さいアンテナ付きのコンピューターを並べたもので、体内で必要に応じて複雑な体内プロセス全体に動力を提供するネットワークとなる)
- スマートピル(プロテウス・バイオメディカルとノバルティスが開発)
シフト2 デジタルプレゼンス
- 三大ソーシャルメディア(フェイスブック、ツイッター、インスタグラム)を国家と考えると、人口は中国より約10億人多い
シフト3 視覚が新たなインターフェイスになる
- グーグル・グラス
- 3Dオブジェクトを、粘土で成型するかのように自由に操作できる眼鏡
- 何かを見た瞬間に、必要な情報を即時に提供する眼鏡
- 通りかかったレストランのメニューをオーバーレイ表示で見ることができる眼鏡
- 紙片に画像や映像を投影する眼鏡
シフト4 ウェアラブル・インターネット
- スマートウォッチ
- ウェアラブル・ベビー・モニター
- リアルタイムのトレーニングデータを提供するスポーツ用シャツ
シフト5 ユビキタスコンピューター
- 世界の人口の85%強がインターネットサービスを提供できる携帯電話の電波塔から数キロ圏内に住んでいる
シフト6 ポケットに入るスーパーコンピューター
- 2010年のiPhone4からわずか5年後のアップル・ウォッチのスピードはiPhone4の2台分に匹敵している
シフト7 コモディティ化するストレージ
- 多くの企業で2ギガから50ギガまでの無料ストレージをクラウドで提供している
シフト8 インターネット・オブ・シングスとインターネット・フォー・シングス
- 2020年までに500億台を超えるデバイスがインターネットに接続されると予想される
- BMWによると、2020年までに22%、2億9000万台の車がインターネットに接続される
シフト9 インターネットに接続された住宅
- ハブ装置が住戸によるユーザーのニーズの探知を支援し、なんでも自動調整するようになる。
シフト10 スマートシティ
- スペイン北部のサンタンデル市には2万台のセンサーが接続されている
シフト11 意思決定へのビッグデータ利用
- すべての企業の全世界にある事業データは、1.2年ごとに倍増している
シフト12 自動運転車
- 2015年、テスラはソフトウェアのアップデートで車両を半自動運転可能にした
シフト13 AIと意思決定
- AI言語のコンセプトネット4はIQテストで一般的な4歳児より良い点数を取った
シフト14 AIとホワイトカラーの仕事
- IBMのワトソンはクイズ番組で素晴らしい成績をあげた、人間よりも正確な肺がんの診断率を示した
シフト15 ロボット技術とサービス
- 部品の選別を行うバクスターの発売
シフト16 ビットコインとブロックチェーン
- 中間業者なしでも当事者間の決済を行うプログラム。ブロックチェーン上で保管され、確約を継続するのに他社に依存するリスクを排除している。
シフト17 シェアリング経済
所有に関する固定概念が根底にあるが…
- 世界最大の小売店が店舗を1店も持っていない アマゾン
- 世界最大の宿泊施設提供者がホテルを一軒も持っていない エアビーアンドビー
- 世界最大の輸送サービス業者が車両を1台も持っていない ウーバー
シフト18 政府とブロックチェーン
- 2015年に最初の仮想国家ビットネーションが身分証明カードの本人確認技術の基礎としてブロックチェーンを使用して創設された
- エストニアはブロックチェーンを実際に導入した最初の政府になった
シフト19 3Dプリンタと製造業
- 製造業向け3Dプリンタ
シフト20 3Dプリンタと人間の健康
- 2014年に北京大学で3Dプリンタされた脊柱を若い患者に移植した
シフト21 3Dプリンタと消費財
- 2014年には世界で13万3000台の3Dプリンタが出荷された。2013年比で68%増。
シフト22 デザイナーベビー
シフト23 ニューロテクノロジー
- 過去数年間の世界で最も多額の資金が投じられた研究プログラムのうち2つが脳科学であった