全ての知識と知恵はSDGs(Sustainable Development Goals)のために。

「ファクトフルネス」内容の要約と紹介:ハンス・ロスリング,オーラ・ロスリング,アンナロスリング・ロンランド

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SDGsを理解するうえで必要な一冊

公衆衛生学の専門家

著者は公衆衛生学の専門家である。医師であり、医学部で教えてきた。医療統計・疫学の基礎をバックグラウンドに、世界銀行と国連がまとめたデータを使って事実を示している。

原著は2018年に出版。日本では2019年1月15日に第1版。

世界銀行と国連がまとめたデータを使っているという点がとても重要である。つまり、誰でも入手可能で、検証可能なデータであるからだ。本書に反証するのも、同じように万人にアクセスできるデータを使えばよい。難しいことではない。

医療統計や疫学を専門としている人は少ない。詳しいことは分からないが、疫学や医療統計は一般的な統計学とは性質が異なるという。根本の考えが違うという。そのため、統計家がそのまま医療統計や疫学の世界で通用するかと言うと、通用しないという事になるらしい。

こうした著者の経歴のため、書かれていることは、公衆衛生学に関係することが多いように感じる。いわゆる文系のジャーナリストが書くような内容とは趣が異なることは間違いない。医療の人間の言葉で語られる。なじみのない世界の専門家が書いた一般書であるが、内容は極めて面白い。

SDGsとファクトフルネス

2030年に向けて、2015年9月に国連で2015年から2030年までの長期的な開発の指針として「持続可能な開発のための2030アジェンダ」が採択された。

この中核をなすのがSDGs(Sustainable Development Goals=持続可能な開発目標)である。SDGsでは17の目標と169のターゲットで構成されている。

国際的な開発目標を達成するためには、正確な現状を認識する必要があるが、多くの人は世界を正しく認識していないことがわかっている。

著者は言う。

  • 間違った知識を持った政治家や政策立案者が世界の問題を解決できるはずがない。
  • 世界を逆さまにとらえている経営者に、正しい経営判断ができるはずがない。
  • 世界のことを何も知らない人たちが、世界のどの問題を心配すべきかに気づけるはずがない。

正しい知識を得るためには、好奇心を持って情報を常にアップデートする必要があるのと同時に、固定化された先入観を取り払う必要がある。

正しい知識を持っていれば、世界は良い方向へ向かっていることがわかる。SDGsの達成に向かっていることも分かる。

そして、正しい知識を持つ人が増えれば、共通認識が高まり、より一層SDGsの達成の可能性が高まる。

世界についての知識不足の要因

世界についての知識不足が、なぜこれほど根付いているのだろう。著者は当初、知識のアップデートの問題だと考えた。公衆衛生を学ぶ学生達や、著者のクイズを受けた人たちが持っている知識は、数十年前からアップデートされていないので、知識が不足していると考えたのだ。

しかし、やがて知識のアップデートだけが問題でないことに気づいた。

先入観も問題だったのだ。次のような先入観をを持っていないだろうか。

  • 世界では戦争、暴力、自然災害、人災、腐敗が絶えず、どんどん物騒になっている。
  • 金持ちはより一層金持ちになり、貧乏人はより一層貧乏になり、貧困は増え続ける一方だ。
  • 何もしなければ、天然資源ももうすぐ尽きてしまう。

著者は、これを「ドラマチックすぎる世界の見方」と呼んでいる。

実際のところ、先入観は間違っている。世界の大部分は中間所得層に属していて、貧困は減り続けている

イメージする「中流層」とは違うかもしれないが、極度の貧困状態とはかけ離れている。女の子も学校に行くし、子供はワクチンを接種するし、女性ひとりあたりの子供の数は2人だ。多産の時代は終わっている。休みには海外へ難民としてではなく観光客として行く。

「ドラマチックすぎる世界の見方」に対して、「事実に基づく世界の見方」は次の通りだ。

世界は、時を重ねるごとに少しずつ良くなっており、何もかもが毎年改善するわけではないし、課題は山積みであるが、人類が大いなる進歩を遂げているのは間違いない。

誰でも無意識に「自分の世界の見方」を反映させてしまう。自分の見方が正しいと思うからだ。だが、世界の見方が間違っていたら、正しい推測もできない。

「ドラマチックすぎる世界の見方」をしてしまうのは、知識のアップデートを怠っているためではない。原因は脳の機能にある。

瞬時に何かを判断する本能と、ドラマチックな物語を求める本能が、世界の見方についての誤解を生んでいる。世界は、思うほどドラマチックではない

第1章 分断本能 「世界は分断されている」という思い込み

人は物事や人々を2つのグループに分けないと気が済まないものである。そして、2つのグループの間には、決して埋まらない溝があると思い込む。これが「分断本能」である。

分断本能による勘違いはたちが悪い。金持ち対貧乏という、世界を間違った枠組みで分けてしまうと、世界のイメージは隅々まで歪められてしまう。

「途上国」と「先進国」という言葉を使うとき、頭にあるのは「貧しい国」と「豊かな国」である。言い方は他にもあるが、あまり意味はない。例えば、「西洋諸国」と「そのほかの国々」、「北国」と「南国」、「低所得」と「高所得」などである。

子供を巡るデータを見てみよう。1965年のデータと2017年のデータを比較すると、世界は一変している。少人数家族が当たり前になっている。インドや中国を含むほとんどの国で、命を落とす子供の数は激減しており、ほとんどの国は、出生率は低く、生存率は高い。

生活にかかわる他の指標においても同じ変化がみられる。所得、観光客の数、民主化の度合い、教育・医療・電気へのアクセスなどでも、世界が分断されていたのは過去の話で、今はそんなことはない。

いまや世界のほとんどの人は中間にいる。世界の人口の75%は中所得の国に住んでいる。これらは、特別な統計は使っていない。世界銀行と国連がまとめたデータである。

低所得の国のイメージも間違っている。低所得国の平均寿命は62歳で、多くの人は食べ物に困らないし、多くの人はある程度安全な水道水を飲めるし、多くの子供はワクチンを接種するし、多くの女の子は小学校を卒業する。

だが、多くの人は低所得国の暮らしは実際よりはるかにひどいものだと勘違いしている。

しかも、低所得国に住んでいるのは、世界の実行の9%しかいない。だから、世界が分断され、大半の人がみじめで困窮した生活を送っているというのは幻想である。

中所得の国と高所得の国と合わせると、91%になる。世界には50億人の見込み客がいるのだが、思い込みのせいでそれに気が付けない。

分断してみるのではなく、複数の指標に分けて世界を見てみるといい。

4つの所得レベル(1日当たりの所得)が大いに参考になるだろう。それぞれのレベルに属する人口は次のとおりである。

  • レベル1  ~2ドル 約10億人
  • レベル2 2~8ドル 約30億人
  • レベル3 8~32ドル 約20億人
  • レベル4 32ドル~ 約10億人

人類の歴史が始まったころ、誰もがレベル1にいた。1950年代の西ヨーロッパや北アメリカはレベル2とレベル3だった。最初からレベル4の豊かな生活を享受していた国はない。

大半の人がどこにいるかを探すこと。

  • 「平均の比較」に注意しよう。分布を調べてみると、2つのグループに重なりがあり、分断などないことが多い。
  • 「極端な数字の比較」に注意しよう。人や国のグループには必ず、最上位層と最下位層が存在する。2つの差が残酷なほど不公平なときもある。しかし多くの場合、大半の人や国はその中間の、上でも下でもないところにいる。
  • 「上からの景色」であることを思い出そう。高いところから低いところを正確に見るのは難しい。どれも同じくらい低く見えるけれど、実際は違う。

第2章 ネガティブ本能 「世界はどんどん悪くなっている」という思い込み

誰しもポジティブな面よりネガティブな面に注目しやすい。ネガティブ本能のなせるわざである。

そしてこれが「世界はどんどん悪くなっている」という勘違いが生まれる原因となっている。これほどよく聞く意見はほかに見当たらない。

戦争による死は第2次世界大戦後減り続けているが、シリア内戦で増えつつあり、テロの数も増加中である。漁業の乱獲や海洋汚染も深刻である。温暖化も深刻である。金融の仕組みは複雑で金融危機がいつ起きてもおかしくない。

データからも世界の大半の人は「世界はどんどん悪くなっている」と考えている。

暗い話はニュースになりやすいが、明るい話はニュースになりにくい。数えきれないほどの小さな進歩が世界中で起きているが、一つ一つの変化はゆっくりで細切れのため、ニュースにはなかなか取り上げられない。だが、世界は思っているよりもずっと良いと知れば、元気も湧いてくる。

過去20年のあいだ、極度の貧困にある人の数は半減した。この事実を知っている人は、ほとんどの国で10%未満だった。

1800年ころは、人類の85%が極度の貧困、すなわちレベル1の暮らしをしていた。世界中で食料が不足しており、イギリス国内や植民地では児童労働が当たり前で、子供が働き始める平均年齢は10歳だった。大半の人にとってレベル1の暮らしは1966年まで続き、極度の貧困は「例外」ではなく「あたりまえ」だった。

だが、この20年で数十億人が貧困から抜け出し、グローバル市場で消費者や生産者になり、レベル2やレベル3になった。

平均寿命も延びている。現在の平均寿命は72歳になった。1800年ころ、世界の平均寿命は約30歳だった。それまでの人類史で、平均寿命はずっと30歳のままだった。

レベル4にいるスウェーデンは、世界でもっとも豊かで健康な国の一つだが、昔は違った。1891年、スウェーデンは今の今のレソトのようだった。世界で最も平均寿命が短く、所得はレベル1とレベル2の間だった。1921年ころ、スウェーデンは今のザンビアと同じレベル2になった。1948年のスウェーデンは今のエジプトと同じレベル3の真ん中にいた。1950年代から1960年代にかけて、スウェーデンは今のマレーシアに迫り、1975年には今のマレーシアと同じくレベル4になりかけていた。

「世界はどんどん悪くなっている」という思い込みからなかなか抜け出せない原因は「ネガティブ本能」にある。

ネガティブ本能を刺激する要因は3つある。(1)あやふやな過去の記憶、(2)ジャーナリストや活動家による偏った報道、(3)状況まだまだ悪いときに「以前に比べたら良くなっている」と言いづらい空気である。

「(1)あやふやな過去の記憶」により、思い出は美化される。悲惨な過去には目を背けがちで、下の世代には伝わらない。残虐な過去と向かい合いたければ、古代の墓地と現代の墓地を比較すればよい。古代の墓地には子供遺骨が多いが、現代の墓地にはあまりない。

「(2)ジャーナリストや活動家による偏った報道」のおかげで悪いニュースが目に付くようになり、皮肉なことに世界は全然進歩していないと思う人が増えてしまった。活動家や利益団体による印象操作も悪影響を与えている。

ショッキングな事件は毎年起こり、メディアは大々的に報道する。その結果、1990年以降のほとんどの年において「犯罪が増えている」と答える人が大半を占めた。

だが実際のところ、1990年以降、アメリカの犯罪発生率は減り続けている。1990年には1450万件だったが、2016年には950万件に減った。

ネガティブ本能を抑えるには「悪いニュースのほうが広まりやすい」ことに気づくこと

  • 「悪い」と「良くなっている」は両立する。
  • 良い出来事はニュースになりにくい。
  • ゆっくりとした進歩はニュースになりにくい。
  • 悪いニュースが増えても、悪い出来事が増えたとは限らない。
  • 美化された過去に気をつけよう

第3章 直線本能 「世界の人口はひたすら増え続ける」という思い込み。

直線本能が「世界の人口はひたすら増え続ける」という勘違いを生んでいる。キーワードは「ひたすら」である。

世界の人口が増え続けるのは間違いない。13年後には、今よりも10億人増える見込みである。だが、国連の予測によれば、2100年の子供人口は20億人で、現在と変わらない。人口もこれまでのような右肩上がりにはならない。

紀元前8000年ころ、人口は約500万人だった。そこから1万年ほどはゆっくりと増え続け、1800年ころに10億人になった。1800年ころからたった130年で20億人になった。そして100年しないうちに70億人になった。

こうして見ると、人口はとんでもない速度で、「ひたすら」増えているように見える。だが、国連の予想によると、人口が増えるスピードはすでに緩やかになりつつあり、これから数十年は減速する見込みである。世紀末を迎えるころにはグラフは横ばいとなり、人口は100億~120億人で安定するとみられている。

人口爆発を食止めるのに最も効果的なのは、子供をこれ以上増やさないことである。だが、すでに増えない。子供の数は今とほとんど変わらない。「すでに」子供の人口は横ばいになっている。人口が増えるのは大人(15歳~74歳)が増えるからである。

女性一人当たりの子供の数は1965年には5人だったのが、2017年には2.5人になって半減している。子供が増えないことは数字でも示されている。

理由は、極度の貧困から抜け出したおかげで、子供をたくさん作る必要がなくなったからである。たくさん子供を働かせなくてよくなり、病気で亡くなる子供の分だけ多めに子供を作らなくてもよくなったのだ。

これからも多くの人が極度の貧困を抜け出し、多くの女性が教育を受け、性教育や避妊具が普及していくと、女性一人当たりの子供の数は減り続けるだろう。過激な施策は不要で、今のやり方を続ければよい。人口増を止める確実な方法は一つしかない。極度の貧困を無くし、教育と避妊具を広めることである。

直線本能を抑えるには、グラフにはさまざまな形があることを知っておくこと。

  • なんでもかんでも、直線のグラフを当てはめないようにしよう。

第4章 恐怖本能 危険でないことを、恐ろしいと考えてしまう思い込み

我々の頭の中と外の間には関心フィルターという防御壁のようなものがある。関心フィルターには10個の穴が開いており、それぞれ本能と対応している。分断本能の穴やネガティブ本能の穴、直線本能の穴などである。。本能を刺激する情報は穴から入ってこられるようになっている。

メディアはこれを十分理解しており、関心フィルターを通り抜ける見込みのない情報は流さない。なかでも「恐怖本能」は厄介である。メディアは恐怖本能を刺激するか否かを判断基準にしていることが多いからだ。

メディアは「身体的な危害」「拘束」「毒」に関するニュースを流す。

  • 「身体的な危害」暴力、危険動物、鋭利な刃物、自然の脅威など
  • 「拘束」何かに閉じ込められたり、誰かの支配下に置かれたり、自由を奪われるなど
  • 「毒」目に見えない有毒物質など

レベル3やレベル4になると、自然の過酷さに悩まされることが少なくなるが、進化の過程で発達した恐怖心は、役立つどころか逆に足を引っ張ってしまう。恐怖本能のおかげで、間違った世界の見方を身に着けてしまっている。

洪水や地震、暴風雨、干ばつ、山火事、異常高温、異常低温などの自然災害で亡くなる人は100年前に比べて25%になった。同じ時期に人口は50億人増えている。一人換算にすると、災害による死亡率は100年前の6%になっている。これはほとんどの人がレベル1から脱出したからである。懐が豊かになり、災害に備えられるようになった。

現在、世界の災害支援の情報は、国連のリリーフウェブというサイトに集まるようになった。リリーフウェブはレベル4の暮らしをしている人たちの税金によって成り立っている。自然災害により亡くなる人が大幅に減ったのは、人類にとってひとつの進歩である。

2015年に起きたネパールの地震で10日間で9000人亡くなった。同じ10日間に汚染水による下痢が原因で9000人の子供が亡くなっている。汚染水は世界で最も多くの子供の命を奪っているものの一つである。だが、こうしたことを伝えるメディアはない。

2016年には4000万機の飛行機が死者を一人も出さずに離発着した。安全なフライトがニュースになることはない。1930年代まで、飛行機に乗ることは命がけだった。1944年に各国の航空局の責任者がシカゴに集まり、シカゴ条約が締結された。特に航空機事故調査が重要な締結内容だった。報告書は各国に共有されるようになり、互いの失敗から教訓を得られるようになった。人類史上最高のチームワークの産物である。

悪いと良くなっているは両立する。昔の世界は戦争ばかりだったが、今は戦争がほとんどない。戦争がある地域はあるが、ゆっくりと世界が平和になっていること以上にすばらしい進歩はあるだろうか。

チェルノブイリ原発事故や福島の原発事故で、原発近くの住民を含めて、死亡率が大幅に高まったという証拠は見つかっていない。殺虫剤のDDTについても同様である。

DDTについては、2006年に世界保健帰還が調査を検証し終えた。アメリカ疾病予防管理センターと世界保健機関は、DDTを人体にとって、やや有害とい位置づけた。そして、多くの場面で、DDTのメリットはデメリットを上回ると指摘した。だが、使うことができない。

アメリカのメリーランド大学の研究者は1970年以降のすべてのテロ事件のデータを集めている。グローバル・テロリズム・データベースと呼ばれている。17万件以上のデータが載っている。

データベースによれば、2007年から2016年の10年間で、テロによって世界で15万9000人が亡くなっている。その前の10年に比べて被害者は3倍になっている。だが、レベル4の国に限っては、テロの数は減っている。2007年から2016年にレベル4の国では1439人が亡くなった。その前の10年は9.11事件があったので4358人が亡くなっているが、9.11事件を除けば、ほとんど変わっていない。

レベル1~3の国で大幅に増えている。ほとんどはイラク、アフガニスタン、ナイジェリア、パキスタン、シリアでのテロの増加である。

だが、アメリカで調査をすると、テロへの恐怖は、同時多発テロ直後と変わっていない。アメリカでは過去20年間に3172人がテロで亡くなった。同じ期間移140万人が飲酒が原因で亡くなっている。大切な人が酔っ払いに殺される確率はテロリストに殺される確率より約50倍高い。だが、これはニュースにはならない。

恐怖本能を抑えるには、リスクを正しく計算すること。

  • 世界は恐ろしいと思う前に、現実を見よう。
  • リスクは「危険度」と「頻度」、言い換えると「質」と「量」の掛け算で決まる
  • 行動する前に落ち着こう

第5章 過大視本能 「目の前の数字がいちばん重要だ」という思い込み

過大視本能は2つの勘違いを生む。

1つは「数字を一つだけ見で、この数字はなんて大きいんだとか、なんて小さいんだと、勘違いしてしまう」こと、そしてもう一つは「ひとつの実例を重要視しすぎてしまうこと」である。過大視本能と、ネガティブ本能が合わさると、人類の進歩を過小評価しがちになる。

レベル1や2にいる国では、子供の生存率が伸びる理由の多くは病院の外にある。地域の看護師や助産師、教育を受けた親たちが講じる病気の予防策が効果を上げるからだ。

特に母親の影響が大きい。世界中で、子供の生存率が伸びている原因を調べてみると、母親が読み書きができることが上昇率の約半分に貢献している。

だから、子供の生存率を伸ばすには、まっさきに初等教育・看護師教育・予防接種を充実させるべきである。

過大視本能を押さえるのは、たった2つのテクニックを使うだけである。これによって、大きさや割合を勘違いしないで済む。その方法とは、「比較」と「割り算」である。

まずは「比較」である。

2016年、赤ちゃんは420万人亡くなった。だが、2015年は450万人、2014年は450万人、…、1950年は1440万人だった。このように人類は以前よりも多くの命を救えるようになっている。だが、数字を比べようとしなければ、それに気が付かない。

著者は1987年にベトナムを訪ねた。その時の印象的な出来事が書かれている。

週末にベトナム戦争の記念碑に案内してもらった。真鍮のプレートと1メートルほどの小さな石が記念碑だった。次に案内されたのが、フランスからの独立記念碑だった。それは4メートル近くあった。最後に案内されたのは金色の大きな仏塔だった。それは中国との戦争の記念碑だった。

ベトナムと中国は休戦期間を含めると、2000年以上続いた。フランスに占領されていたのは200年。ベトナム戦争は20年。記念碑の大きさは、戦いの長さと完全に一致していた。

数字は勘違いさせる。

1918年、スペイン風邪と呼ばれるインフルエンザで、世界人口の2.7%が亡くなった。2009年、豚インフルエンザが流行し、最初の数か月で数千人が亡くなった。しかし、感染者は倍増しなかった。それにもかかわらず、メディアは数週間にわたって危機感をあおり続けた。同じ期間に結核で亡くなった人は6万3000人を超えていた。ほとんどがレベル1と2の国の人だった。

国連の人口予測が的中すれば、次の20年で世界市場の中心は大西洋からインド洋周辺に移る。西洋諸国が経済を牛耳る時代は、もうすぐ終わろうとしている。世界の人口の大半はアジアにおり、西洋諸国の経済力はマジョリティではなく、マイノリティに近づきづつある。

次は「割り算」である。

1950年には9700万人の赤ちゃんが生まれ、1440万人が亡くなった。死亡率は15%。2016年には1億4100万人の赤ちゃんが生まれ、420万人が亡くなった。死亡率は3%。以前とは比べ物にならないほど死亡率が下がっている。

過大視本能を抑えるには、比較したり、割り算をしたりするといい。

  • 比較しよう
  • 80・20ルールを使おう
  • 割り算をしよう

第6章 パターン化本能 「ひとつの例がすべてに当てはまる」という思い込み

人は何も考えずに物事をパターン化し、それをすべてに当てはめてしまう。無意識であり、偏見があるとか、意識が高いかどうかは関係がない。思考の枠組みなのである。残念なことに、ほんの数例で、ひとつだけの例外的な事柄に基づいて、グループ全体の特徴を決めつけてしまう。

ステレオタイプは多くの深刻な問題を引き起こし、間違ったパターン化は思考停止につながり、あらゆる物事への理解を妨げてしまう。「世界は分断化されている」という思い込みもそうであり、このパターン化によって「わたしたち」と「あの人たち」は違うという勘違いを生む。

世界の大半の人たちの生活レベルは着実に上がっている。レベル3の人口は、今の20億人から2040年には40億人に増える。世界中のほぼすべての人が消費者になりつつある。間違ったイメージにとらわれると、史上最大のビジネスチャンスを見逃してしまう。

分類は必要だ。大事なのは間違った分類に気づき、適切な分類に置き換えること。

自分の分類の仕方は間違っているかもしれないといつも疑ってかかった方がいい
1)同じ集団の中の違いと、違う集団のあいだの共通点を探すこと
2)「過半数」に気をつけること
3)例外に気づくこと
4)自分が「普通」だと決めつけないこと
5)一つのグループの例を他のグループに当てはめていないかを振り返ること

パターン化本能を抑えるには、分類を疑うといい

  • 同じ集団の中にある違いを探そう
  • 違う集団の間の共通項を探そう
  • 違う集団の間の違いも探そう
  • 過半数に気をつけよう
  • 強烈なイメージに注意しよう
  • 自分以外はアホだと決めつけないようにしよう

第7章 宿命本能 「すべてはあらかじめ決まっている」という思い込み

宿命本能は、持って生まれた宿命によって、人や国や宗教や文化の行方は決まるという思い込みである。昔からそうだし、これからも永遠にそのままだ。人間の進化の過程では、この本能は役だったに違いない。人間は昔からあまり変化のない環境で暮らすことを選んできた。違う環境に次々と自分を合わせるよりも、同じ環境に慣れ、それが続くと考える方が生き残りには適していたのだろう。

種族や部族、国家、帝国の力を強めるために、宿命論は役に立った。だが、現在、物事が変わらないと思い込み、新しい知識を取り入れることを拒めば、社会の劇的な変化が見えなくなってしまう。

社会と文化も変わっていく。西洋の社会と文化も変わるが、西洋以外の変化のスピードは西洋よりもはるかに速い。ヨーロッパ人の多くは、欧州文化はアフリカやアジア文化よりも優れていると勘違いしているし、アメリカの消費文化を見下して優越感に浸っている。

2008年の金融機関の後、IMFはレベル4の国々の予想経済成長率を年率3%のままに据え置いた。だが5年連続でこの目標に届かなかった。ようやく気付いたIMFはやっと予想成長率を2%に下げた。一方でレベル2の国が5%を超える高成長を遂げていた。これからやってくるアジアやアフリカの市場拡大に比べれば、西洋の消費市場なんて予告編でしかない。「すべてはあらかじめ決まっている」という思い込みにとらわれていると、ビジネスチャンスをみすみす逃すことになる。

問題は自称「自由なメディア」にもある。メディアは世界で最も急激な文化的変化を報道していない。

例えば、イラン女性のひとりあたりの子供の数はアメリカやスウェーデンより少ない。イランでは1990年代には性教育が義務化され、国民の教育レベルは高く、進んだ公的医療制度が人々に開かれていた。

避妊を禁ずる宗教は多いので、信仰心の篤い女性は子供数か多いと思い込んでしまうのは早計である。宗教と女性一人当たりの子供には、それほど関連がない。子供数と強く関連するのは所得の方である。

1960年時点で、女性一人当たりの子供の数が平均3.5人未満だった国は40か国。日本を除けば全部キリスト教徒が多数を占める国だった。だが、メキシコやエチオピアのようにキリスト教徒が多数を占める国では大家族が当たり前だった。キリスト教と、イスラム教、その他に分けてみても、どの宗教でもレベル1の極度の貧困層では子供が多い。

宗教によって子供が多いと決めつけるのは、特定の価値観や振る舞いが文化に根差していて、変わらないし変えることができないという思い込みの一例である。

スウェーデンでも、セックスや避妊についての価値観は極めて保守的だった。1960年代は、スウェーデンでは中絶は違法だった。文化は変わるのである。社会と経済が進歩すれば、価値観は変わっていく。変わらない文化などない。

社会と文化は常に変わり続ける。小さくゆっくりとした変化でも、積み重なれば大きくなる。毎年1%の成長でも、70年続けば倍になる。2%なら35年で倍、3%なら24年で倍である。

1900年までに地球上の0.03%の土地が保護された。1930年には0.2%になった。今では15%が保護区域になり、面積は増え続けている。小さな変化も積み重なれば大きな変化になる。

だが、社会科学では基礎の知識でさえすぐに賞味期限が切れるので、いつも新鮮なものを手に入れるのが良い。

宿命本能を抑えるには、ゆっくりとした変化でも、変わっているということを意識するといい

  • 小さな進歩を追いかけよう
  • 知識をアップデートしよう
  • おじいさんやおばあさんに話を聞こう
  • 文化が変わった例を集めよう

第8章 単純化本能 「世界はひとつの切り口で理解できる」という思い込み

世界のさまざまな問題にひとつの原因とひとつの解答を当てはめてしまう傾向が「単純化本能」である。世界を一つの切り口で見れば、悩まずに済むし、時間の節約になる。だが、世界を本当に理解したいと思ったら、このやり方は役に立たない。

自分が肩入れしている考え方の弱みを探したほうがいい。自分の専門分野でも当てはまる。自分の意見に合わない新しい情報や、専門外の情報を進んで仕入れるのが重要。

世界を一つの切り口で見てしまうのは、2つの理由がある。ひとつは政治思想で、もうひとつは専門知識である。

その道のプロにも限界がある。自分の専門分野以外のことについてはプロではない。ものすごく数字に強い人や、教育レベルの高い人でも、本書のクイズでは、普通の人並みか普通の人より間違いが多かった。

頭がいいからと言って、世界の事実を知っているわけではない。数字に強くても、教育レベルが高くても、ノーベル賞受賞者でも例外ではない。その道のプロは、その道のことしか知らない

プロと言っても、自分の専門領域のことさえ知らない人もいる。活動家の多くはその道のプロを自称するが、自分が力を注いできた社会問題を、実際より大げさに語っている。

専門知識が邪魔すると、実際に効果のある解決法が見えなくなる。知識が問題解決の一部に役立つことはあっても、すべての問題が専門知識で解決できるわけではない。例えば、数字いじりだけで引き出された結論は疑ってかかった方がいい。

医療の専門家の中には、医療について凝り固まった見方しかできない人や、特定の治療法にこだわる人がいる。ひとつの病気に絞って根絶しようとするより、地域の中で総合的な医療を提供し、それを改善していく方が得策だったりする。

政治思想でも同じである。特定の政治思想に凝り固まると、ひとつの考え方や解決策にとらわれて、かえって社会に害を与える。

キューバはひとつの思想にこだわるあまりに、健康な国の中で一番貧乏になっている。逆にアメリカは豊かな国の中で一番不健康である。

アメリカ人の一人当たりの医療費は、ほかのレベル4の資本主義国の倍以上である。他の国が3600ドル程度だが、アメリカは9400ドルである。それなのに、アメリカ人の平均寿命は他の国よりも3歳短い。

アメリカ人のひとりあたりの医療費は世界一高いが、平均寿命の長い国は39か国もある。理由は、ほとんどのレベル4の国民が当たり前に受けている公的健康保険制度がないためである。

急激な経済発展と社会進歩を遂げた国のほとんどは、民主主義ではない。さまざまな目標を達成するのに、民主主義が最も良い手段とは言えない。

単純化本能を抑えるには、なんでもトンカチで叩くのではなく、さまざまな道具の入った工具箱を準備した方がいい

  • 自分の考え方を検証しよう
  • 知ったかぶりはやめよう
  • めったやたらとトンカチを振り回すのはやめよう
  • 数字は大切だが、数字だけに頼ってはいけない
  • 単純なものの見方と単純な答えには警戒しよう

第9章 犯人捜し本能 「誰かを責めれば物事は解決する」という思い込み

何か悪いことが起きたとき、単純明快な理由を見つけたくなる傾向が、犯人捜し本能だ。物事がうまくいかないと、誰かがわざと悪いことを仕組んだように思いがちである。犯人捜し本能のせいで、個人なり集団なりが実際より影響力があると勘違いしてしまう。

メディアはなぜ世界を歪んだ見方で報道するのか。それは、ジャーナリストも映画製作者たちも世界を誤解しているからである。とんでもない勘違いをしてるからである。メディアは現実を映す鏡にはなれない。

2015年。救命ボートでヨーロッパに向かおうとした4000人の難民が地中海で命を落とした。密輸業者が家族から一人1000ユーロをとって救命ボートに乗せたのだった。だが、なぜ難民は飛行機やフェリーでヨーロッパに行かなかったのか。EUの加盟国はすべてジュネーブ条約に著名しており、難民には保護を求める権利があるはずだ。ゴムボートに乗るために1000ユーロを払っていたので、お金がなかったわけではない。

理由はこうだ。2001年にEUで不法移民に対する対抗手段を与えていた。航空会社やフェリー会社は入国許可書類のない人をヨーロッパに運び込んだ場合、母国へ送り返す費用をすべて負担することになっていた。ジュネーブ条約に基づく難民は例外である。だが、搭乗窓口のスタッフには、相手が一瞬で難民は不法移民か見分けられない。結局、航空会社はビザのない乗客をだれも搭乗させなくなった。

そして、ボロボロのゴムボートだったのも、EUの方針が絡んでいる。到着したボートは没収されてしまう。そのため、ボートは1回しか使えない。まともな船を準備したくてもできないのである。EUの移民政策はジュネーブ条約を骨抜きにし、密輸業者が支配する交通市場を生み出した。

人間によって生み出された二酸化炭素の大部分はレベル4にいる国々がこの50年で放出してきたものである。金持ちの順に、上の10億人が全体の半分以上の化石燃料を燃やし、その次の10億人が残りの半分を燃やし、次の10億人が残りの半分を燃やし…一番貧しい10億人は全体の1%しか燃やしていない。一番貧しい10億人がレベル1からレベル2になるには、少なくとも20年はかかる。

犯人捜し本能は、個人の影響力を実際よりも大きく見せてしまう。政治指導者やCEOは実力以上に力があると言いたがる。

例えば毛沢東。アジアの出生率が低いのが、毛沢東の一人っ子政策のせいだと言い出したとしたら、それは間違いだ。一人っ子政策は思うほど出生率に影響していない。子供数が大幅に減り始めたのは、一人っ子政策が始まる前の10年間だった。毛沢東のせいではない。

例えばローマ教皇。世界最大の権威を持つ存在だが、子供を産むかどうかには影響を与えられない。教皇は数代にわたって避妊具の使用を批判しているのに、カトリックが多数派の国では60%の人が避妊具を利用している。他の国では58%。カトリックであろうと、なかろうとそれほど変わらない。ローマ教皇の影響力はない。

物事がうまくいかないとき、犯人を捜すよりシステムを見直した方がいい。物事がうまくいったときは、社会基盤とテクノロジーの2種類のシステムのおかげだと思った方がいい。

将来に必要なのは現実的な計画である。110億人全員が望んだ生活を送れるような新しいテクノロジーを開発することに力を注ぐべきである。皆がレベル4の生活を送り、今よりも快適に暮らせるような解決策を見出さなければならない。

犯人捜し本能を抑えるためには、誰かに責任を求める癖を断ち切るといい

  • 犯人ではなく、原因を探そう
  • ヒーローではなく、社会を機能させている仕組みに目を向けよう

第10章 焦り本能 「いますぐに手を打たないと大変なことになる」という思い込み

いますぐ決めろとせかされると、批判的に考える力が失われ、拙速に判断し行動してしまう。目の前に危機が迫っていると感じると、焦り本能ですぐに動きたくなる。遠い昔はその本能が人間を守ってくれた。今でも役には立つが、複雑で抽象的な問題にぶつかると、焦り本能は理解を妨げてしまう。焦り本能がプレッシャーとなり、他の本能も抑えが効かなくなる。正しい分析ができなくなり、拙速に判断したり、考え抜く前に過激な手を打ちたくなってしまう。

温暖化を今すぐに止めるのにはどうすればいいか?温室効果ガスを大量に排出している人がすぐにやめればいい。それはレベル4の人たちだ。だが、地球温暖化について、おもに二酸化炭素の排出データは、驚くほど少なかった。記録がなければ、この問題を真剣に考えているとは言えない。

グローバルな危機が5つある。

  1. 感染症の世界的な流行
  2. 金融危機
  3. 世界大戦
  4. 地球温暖化
  5. 極度の貧困

これら5つは実際に起きる可能性が高い。危機を避けるには、人々が力を合わせて、小さな歩みを重ねるしかない。

感染症の世界的流行は過去にあった。第1次世界大戦中に世界中に広がったスペイン風邪で5000万人が亡くなった。大戦の犠牲者よりも多かった。スペイン風邪の流行で、世界の平均寿命は33歳から23歳へ10年も縮まった。新種のインフルエンザが最大の脅威であるのは、感染症の専門家の共通認識である。

大変残念なことに、著者の懸念が現実となってしまった。

新型のインフルエンザではなかったが、2019年後半に始まり、2020年前半にパンデミックを引き起こしたCOVID-19である。

経済も同時に破壊されるという世界的大惨事になった。

金融危機はたびたび起きている。金融バブルがはじけると悲劇がおきる。2008年の金融危機よりも悲惨な事態になるかもしれない。世界で最も優秀な経済学者でも先の金融危機を予測できない。

戦争もそうである。世界が平和でなければSDGs(持続可能な開発目標)もただの絵に描いた餅である。

この数十年は歴史の中でも比較的平和な時代で、貧困から抜け出せない人の割合は、これまでで最も低くなっている。それでも8億人が取り残されている。この8億人を救うのに必要なのは、平和、学校教育、すべての人への基本的な保健医療、電気、清潔な水、トイレ、避妊具、市場経済に参加するための小口信用(マイクロクレジット)である。貧困の撲滅にイノベーションは必要ない。

焦り本能を抑えるには、小さな一歩を重ねるといい

  • 深呼吸しよう
  • データにこだわろう
  • 占い師に気をつけよう
  • 過激な対策に注意しよう

第11章 ファクトフルネスを実践しよう

教育で最新の事実に基づく世界の見方を子供たちにこそ教えるべきである。

  • 世界には健康と所得のレベルがさまざまに違う国がある。そのほとんどが中程度である。
  • 自分たちの国の社会と経済が、世界の中でどのあたりに位置するか。それがどう変わっているか。
  • 自分たちの国がいまの所得レベルになるまでに、どのように進歩してきたのか。ほかの国の人たちが今どんな生活を送っているのか。
  • 貧しい国の所得レベルは上がっていて、物事はいい方向に向かっている。
  • 自分たちの国は進歩していないと誤解しない
  • 反するように見える2つのことが、両立する。世界では悪いことも起きているが、たくさんのことが良くなっている。
  • ニュースの見方。本能に訴えかけようとするメディアの手口を見抜けるようになれば、悪いニュースに惑わされなくなる
  • 文化や宗教のステレオタイプは世界を理解するのに役に立たない
  • 数字でけむに巻かれないよう、どんな手口に騙されやすか
  • 世界は変わり続けている、死ぬまでずっと知識と世界の見方のアップデートが必要
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