SDGsの入門書
全体的に経済活動寄りで書かれている。
企業にとってはPart3とPart4がとても重要。
今後SDGsに取り組まないことによるリスクは増えていく一方である。
これは製造業や小売業、金融業だけに限らず、その他の業種も同様のリスクを負う。
国や地方自治体レベルにおいても同様である。取り組みが甘いと、国債や地方債へ波及する。
そして、国や地方自治体レベルがダメとなると、企業へ跳ね返ることになる
Part1 なぜSDGsは注目されるのか?
SDGsは2015年9月に国連サミットで採択された、国連加盟193か国が達成を目指す2016年~2030年までの国際目標。
「誰ひとり取り残さない」という理念のもと、17の目標と169のターゲットを設定。
ターゲットはより具体的な未来の理想像を示したもので、表記が2つに分かれている。
- 数字のみのもの:目標の中身に関するターゲットでより具体的な目標が示されている
- アルファベットのもの:ターゲットを実施する手段を示したもの
国連では「持続可能な開発」を「将来の世代のニーズに応える能力を損ねることなく、現在の世代のニーズを満たす開発」と定義している
そして「持続可能な開発」には次の3要素の調和が求められている。
- 経済開発…経済活動を通じて富や価値を生み出していくこと
- 社会的包括…社会的に弱い立場の人も含め、一人一人の人権を尊重すること
- 環境保護…環境を守っていくこと
この3要素をいかに並び立たせるかを考えることが重要。
SDGsに求められる5つの主要原則は次の通り
- 普遍性 国内実施と国際協力の両面で率先して取り組む
- 包摂性 人権の尊重とジェンダー平等の実現を目指し、脆弱な立場の人々まで、誰ひとり取り残さない
- 参画型 あらゆるステークホルダーや当事者の参画を重視し、全員参加がたで取り組む
- 統合性 経済・社会・環境の三分野の統合的解決の視点を持って取り組む
- 透明性と説明責任 取り組み状況を定期的に評価、公表する
SDGsのもとになったのは、2000年9月にニューヨークで開催された国連ミレニアム・サミットで採択されたMDGs。
MDGsでは2015年までに8つの目標と21のターゲットを掲げた。
一定の効果はあったが、やり残したことがSDGsに引き継がれた。
また、MDGsの8つの目標は、途上国に対して設定された目標だったが、目標が先進国主導だったこともあり、途上国の意向が反映されていないという問題があった。
そこでSDGsでは、途上国だけでなく、先進国を含めたすべての国々を対象とし、豊かさを追求しながら地球環境、人権を守ることに重きが置かれ、目標を8から17に増やしたことで、包括的な目標設定となっている。
SDGsの各目標は、相互に影響しあっている。両立するのが難しくても、次の3つの視点を持って、知恵を絞って達成を目指すのがSDGs。
- 世界や社会ニーズに合わせた目標設定をすること
- 外部の視点から必要な目標設定をすること
- 実施する取り組み全体に「持続可能性」を組み込むこと
相互に関連するSDGsの複数ゴールの同時解決をもたらす取り組みを行う。
17の目標は「5つのP」キーワードに分類される
- Peolpe 人間:目標1~6
- Prosperity 豊かさ:目標7~11
- Planet 地球:目標12~15
- Peace 平和:目標16
- Partnership パートナーシップ:目標17
スウェーデン人の環境学者J・ロックストロームとインド人の環境経済学者P・スクデフによって作られたSDGsウェディングケーキモデルが有名
モデルは環境、社会、経済の3階層からなっており、環境の上に社会、経済を置くことで、自然からの恵みによって社会や経済が支えられていることが示され、SDGsの目標を関連付け、視覚的に環境保護の重要性を示した。
誰でもSDGsの達成に貢献できる。見ていないテレビの電気を消せば省資源につながり、レジ袋ではなくマイバッグにすることでもレジ袋を減らせる。
2019年9月に国連の気候行動サミットで16歳のスウェーデン人環境活動家のグレタ・トゥンベリが大人たちは地球温暖化対策に真剣に取り組んでいないと訴えたことが話題になったが、世界にはこうして行動を起こす人が増えている。
Part2 企業がSDGsに取り組むべき理由
今後、企業はSDGsに取り組まなければ、時代の要請に応えていないとみなされるようになる。
そして、SDGsへの関与と企業の持続可能性は、一層密接な関係性を持つことになる。
2017年1月の世界経済フォーラム(ダボス会議)で、ビジネス&持続可能開発委員会(BSDC)は実体経済の60%を占める4つの経済システムで、2030年までに、SDGsを達成することで年間12兆ドル(約1,320兆円)の経済価値がもたらされ、最大3億8,000万件以上の雇用が創出される可能性がある、と発表した。
4つの経済システムとは「食料と農業」「都市」「エネルギーと材料」「健康と福祉」で、60の領域でビジネスチャンスがあるとしている。企業にとってSDGsが宝の山となる。
中小企業も、将来的に取引業者にSDGsに対応していることが取引条件となる可能性があると言われている。
一方で、身動きの軽い中小企業の方がSDGsに取り組みやすいと言われている。
環境省が示したのは次の4つのメリット。
- 企業イメージの向上
- 社会の課題への対応
- 生存戦略となる
- 新たな事業機会の創出
電通が示したのは次の4つのメリット。
- ステークホルダーとの関係性の改善と発展
- SDGsを共通言語に、さまざまな主体との協働が実現
- 社会課題解決は巨大なビジネスチャンス
- 資金調達に益するESG投融資
だが、日本は欧州企業に比べてビジネスチャンスという意識が低い。
SDGsは「できること」「できそうなこと」から取り組めばよい。
そして、取り組んでいることを周知することが重要で、誰も知らなければ、消費者や投資家にとっては取り組んでいないのと同じ。
- 経営戦略/中長期戦略で示す
- 商品やサービスで示す
- プロモーション/キャンペーンで示す
- 各種認証ラベルを活用して示す
環境に配慮するふりをして、ごまかし行為を行うことを「グリーンウォッシュ」というが、SDGsでも同じように「SDGsウォッシュ」が散見され始めている。
SDGsには法的拘束力はなく、達成できなくてもペナルティはないが、SDGsに逆らう事業活動を行う企業は、投資家から投資対象として外されるようになり、社会的な制裁や代償を課せられるようになっている
Part3 「アプライチェーン」からやるべきことが見えてくる
SDGsは環境や人権の問題を解決しなければ、長期的な時間軸で見て、経済発展が持続的なることを指摘している
つまり、利益至上主義を続けることは、企業にとって真綿で自分の首を絞めるようなものだと気づくべき時が来ているのだ。
2013年4月24日にバングラデシュのダッカ近郊で商業ビルが崩落する事故が起きた
アパレル関係の工場で起きた事故をきっかけに、サプライチェーンの川上の実態を明らかにし、川下のメーカーもその責任を負うべきという意識が高まった
こうして環境や人権に対する意識の高まりもあり、エシカル認証を受けた商品が目立つようになってきた
環境や人権に対して十分に配慮された商品やサービスを選択して買うことを「エシカル(倫理的な)消費」と呼ぶ
日本でも環境やオーガニックの視点を持つ消費者は増えているが、フェアトレードに対する意識は低い。
欧米では消費者がフェアトレードを選好するため、企業が消費者に選ばれるように積極的にフェアトレードに取り組んでいる。
近年サプライチェーン上の問題についてステークホルダーが関心を持っている
サプライヤーがしたこと、では済まされなくなってきている。
企業はサプライチェーン上で起きる環境破壊や人権侵害を自分のリスクとして考えるべきである。
そのためには、企業にとって持続可能なサプライチェーンの仕組みづくりが不可欠である。
特に大企業はサプライヤーに対して、広範にエシカルな行動を求める動きが強まっている
企業・組織の枠組みを超えて技術や知識を持ちより、新技術や新製品を開発するオープン・イノベーションの取り組みも連携のかたちである。
企業とNGO、NPO、地方自治体など、今まであまりなかった組み合わせの連携が活発化している
Part4 SDGs達成のカギを握るESG投資とは?
2006年4月国連事務総長のコフィー・アナンが機関投資家に対して責任投資原則(PRI:Principle for Responsible Investment)を発表した
PRIは機関投資家に投資の際に環境(E:Environment)、社会(S:Social)、企業統治(G:Government)のESGを投資対象の決定に取り組むことを求めている
PRIに法的拘束力はないが、機関投資家に持続可能な社会に貢献する企業への投資を促したことで、投資対象となる企業はESGへの配慮に積極的となった
ESGはいわば非財務情報であるため、ESGを考慮する投資をESG投資という
自然環境に配慮しない企業、女性に差別的な企業、法令違反をする企業は、消費者やパートナー企業から見放され、やがて市場から退場を余儀なくされる
ESG投資の額も年々増え続け、ESGに配慮しない企業は、年を追うごとに機関投資家から投資対象として選定されなくなってきている
日本においても2017年に世界最大級の機関投資家・年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)がESG投資を始めた
企業がESGに配慮すれば、巡り巡ってSDGsの達成へ直結する。
Part5 企業は経営とSDGsをどうリンクさせるのか?
今できることから(フォアキャスティング)ではなく、将来のあるべき姿を起点(バックキャスティング)に、これまでとは違った破壊的創造によって解決策を見出すことが求められている
そして、自分を中心に考える(インサイド・アウト)ではなく、何が必要かを考え目的を達成しようとする(アウトサイド・イン)ことが重要となる。
そのためのツールがSDGsコンパス
- ステップ1 SDGsを理解する
- ステップ2 優先課題を決定する
- ステップ3 目標を設定する
- ステップ4 経営へ統合する
- ステップ5 報告とコミュニケーションを行う
Part6 ビジネスとSDGsを両立させる企業の取り組みから学ぶ
事例1 日本フードエコロジーセンター
日本フードエコロジーセンターは関東近郊の事業所から食品残渣から養豚用の液体飼料を製造している
貢献できる目標:2、3、7、8、12、13、17
事例2 UCC上島珈琲とJICA
2014年からUCC上島珈琲はエチオピアで技術指導に携わり、レインフォレスト・アライアンス認証を導入して高付加価値化につなげた
貢献出来る目標:1、8、15、17
事例3 会宝産業
会宝産業は自動車部品のリサイクルを世界各国で展開
貢献できる目標:1、3、4、8、12、15、17
事例4 大川印刷
大川印刷は2017年には工場の使用電力を自然エネルギー100%に切り替えたり、障がい者支援活動にも取り組んでいる
貢献できる目標:1、2、4、5、6、7、8、10、12、13、14、15、16、17
事例5 滋賀銀行
滋賀銀行ではSDGsへの貢献度が高いと考えられる事業へ投融資を行っている
貢献できる目標:1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17
事例6 IKEUCHI ORGANIC
IKEUCHI ORGANICではエシカルな製品であることを訴求するだけでなく、長持ちする品質の良いタオルの生産を行っている
貢献できる目標:1、2、3、6、7、8、11、12、15、17
事例7 虎屋本舗と地域
虎屋本舗では和菓子教室を通じて子供たちに郷土文化や伝統技能を伝えたり、地元の名産品を使った新しい商品開発を行っている
貢献できる目標:3、4、5、7、8、9、10、11、12、15、16、17
事例8 イオン
イオンは取引行動規範でサプライチェーンを強化
貢献できる目標:1、3、5、6、7、8、9、10、12、13、14、15、16、17