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「予想どおりに不合理-行動経済学が明かす「あなたがそれを選ぶわけ」」内容の要約と紹介:ダン・アリエリー

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概要

単に、読み物として読んでも十分に面白い本である。そして、行動経済学(もしくは判断・意思決定科学)の入門としても、行動経済学とはかくも面白いものなのかと教えてくれる本である。

行動経済学はわりあい新しい分野で、心理学と経済学の両面を持っている。

経済学では「合理性」という基本概念が経済理論や予測や提案の基盤となっている。

だが、人間の理性が完璧だと仮定することは、難しい。

人間は不合理なものであり、完ぺきとは違う。

そして、不合理なだけでなく、「予想どおりに不合理」である。

不合理性はいつも同じように起こり、何度も繰り返される。

その不合理性はふつうの経済理論が想定するよりはるかに合理性を欠いている。

そのため、経済学的には、何か不合理な行動をした場合には、市場原理の力が降りかかり、合理的な道へ押し戻すという仮定すら反故にしてしまう。

しかし、不合理な行動は出たらでもでも無分別でもない。規則性があり、何度も繰り返してしまうため、予想もできる。

ふつうの経済学を修正し、未検証の心理学という状態を抜け出すのを目的とするのが、行動経済学であり、本書の目的である。

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1章 相対性の真相

わたしたちはなんでも比べたがるが、比べ安いものだけを一生懸命比べて、比べにくいものを無視する傾向がある

お金について言えば、給料の多さと幸福感の間に、思っているほど強い関係はないことは、繰り返し立証されてきている。

だが、より高い給料を求めてやまない。そのほとんどはたんなる嫉妬のせいだ。

最高経営責任者のべらぼうな報酬は社会に悪影響を及ぼしている

だれかがとんでもない報酬を手にすると、他の最高経営責任者はさらに高額を要求しようという気になる

2章 需要と供給の誤謬

人に何かを欲しがらせるには、それが簡単には手にはいらないようにすればよい

「アンカリング」

新製品をある価格で買うと、その価格にアンカリングされる

恣意の一貫性というものがある

基本的な概念は、たとえ最初の価格が「恣意」的でも、それがいったんわたしたちの意識に定着すると、現在の価格ばかりか、未来の価格まで決定づけられる。つまりは一貫性がある。

これは、ある品物にいくら出すかを決めるだけでなく、関連する品物にどれだけ出すかも方向づけてしまう

値札そのものはアンカーにはならないが、その価格で買おう、と決めた時にアンカーになり、刷り込みが起きる

最初の決断をする時が特別な注意が必要だ。

最初の決断の持つ力は、その後何年にもわたって未来の決断に影響を与えるほど長くあとを引くこともある

伝統的な経済学では、製品の市場価格はふたつの要素の均衡で決まると考える。「供給と需要」である。

しかし、

  1. 消費者の支払い意志である需要は、簡単に操作されてしまう。つまり、消費者は支払い意志額を自分の思い通りには制御できていない
  2. 供給と需要の力は独立していると仮定するが、実際はふたつが互いに依存している。アンカリングの操作から見えるのは、需要が供給と完全に切り離された力ではないことを意味している

3章 ゼロコストのコスト

ふつうの経済理論=単純な費用便益分析では、値下げによる客の行動に変化は起きないはずである。

だが、無料になると、行動に予想通りに変化が起きる

自分が本当に求めているものでなくとも、無料になると不合理にも飛びつきたくなる

価格設定の世界ではゼロは単なる価格とはみなされない、値段ゼロの効果は、単独で独自のカテゴリーを作っている

われわれはお金を支払う時、金額に関係なくなんらかの精神的な痛みを感じる

社会科学では「出費の痛み」と呼ばれ、苦労して手に入れた現金を、どんな状況であれ手放すときにつきものの不快さである

特徴が2つある

  1. 何も支払わないときは、何の出費の痛みもない
  2. 出費の痛みは支払金額にわりあい鈍感。請求額が高いほど痛みは大きくなるが、1ドル加算されるごとに増える痛みは小さくなっていく=感応度逓減性という

4章 社会規範のコスト

われわれは

  1. 社会規範が優勢な世界
  2. 市場規範が規則を作る世界

に同時に生きている

社会規範は、わたしたちの社交性や共同体の必要性と切っても切れない関係にあり、即座にお返しをする必要はない

市場規範に支配された世界はまったく違う、支払った分に見合うものが手に入る

社会規範と市場規範をべつべつの路線に隔てておけば、順調にいくが、この二つが衝突すると、たちまち問題が起きる

人々がお金のためより信条のために熱心に働くことを示す例はたくさんある

そして、お金よりもプレゼントの方が断然よい

報酬としてプレゼントをもらった方が、それがたいしたものでなくても、社会的交流の世界にとどまることができる

だが、プレゼントの金額を口にするのはタブー

市場規範が台頭するのは、お金のことを口にするだけで十分であることがわかる

託児所での実験

子どもの迎えに遅れてくる親に罰金を科すのが有効か?

罰金はうまく機能しないどころか、長期的にみると悪影響が出る

罰金が導入される前は、先生と親は社会的な取り決めのもと、遅刻に社会規範を当てはめていた
そのため、親たちは時々遅れると後ろめたい気持ちになり、罪悪感から、今度は時間通りに迎えに来ようという気になった

ところが、罰金を科したことで、社会規範を市場規範に切り替えてしまった

遅刻した分をお金で支払うことになると、親は状況を市場規範でとらえるようになり、罰金が科されているのだから、遅刻するもしないも決めるのは自分とばかりに、ちょくちょく遅れるようになった

では、元に戻したら?

託児所は社会規範に戻ったが、親は社会規範に戻らなかった。親は罰金もなくなったので、かえって遅くなるようになった

つまり、社会規範が市場規範と衝突すると、社会規範が長い間どこかへ消えてしまう

社会的な人間関係はそう簡単には修復できないということだ

5章 性的興奮の影響

情熱的な状態になったとき、合理的で知的な人間がどの程度まで予測できるか

興奮しているときと醒めたときとで、大きく回答が異なる

6章 先延ばしの問題と自制

なぜわれわれは先延ばしとの戦いにしょっちゅう敗れるのか

締め切りをあらかじめ決意表明できるようにするツールを与えるだけでよい

先延ばしの問題をわかっていて、機会を与えられれば、その問題に取り組む行動をおこし、それなりの結果をだす

自分の弱点を自覚し、認めている人の方が事前の決意表明に利用できる道具を使いやすく、自力で問題を克服できる

(この章については、次の本が参向になります。)

7章 高価な所有意識

所有意識には奇妙な3つの特徴がある

  1. 自分がすでに持っているものに惚れこんでしまう
  2. 手に入るかもしれないものではなく、失うかもしれないものに注目してしまう
  3. ほかの人が取引を見る視点も自分と同じだと思い込んでしまう

これらに加えて、奇妙な特性もある

  1. 打ち込めば打ち込むほど、それに対する所有意識が強くなる
  2. 実際に所有する前に、所有意識を持ち始める場合がある

8章 扉をあけておく

  • 選択の自由の何がこれほど難しいのか
  • 大きな犠牲を払ってでも、できるだけ多くの選択の扉を開けておかなければならない気がするのはなぜだろうか
  • 単純な設定とはっきりした目標が与えられれば、人間は誰でもかなりうまく喜びの源を追い求められる

一方で、消えかけているチャンスや興味のないチャンスを追いかけたいという押えがたい衝動もある

わたしたちは、扉を開けておきたいという不合理な衝動を抱えている

全ての人には閉じなければならない扉があることを思い出すべきである

時間を無駄にすることにならないように

9章 予測の効果

過去の印象が私たちの見方をどれだけ曇らせているか

雰囲気が高級なら味も高級に感じる

つまり、前もっておいしそうだと信じた時は、たいてい、やはりおいしいということになり、まずそうだと思った時は、あはりまずいということになる。

見せ方の効果を侮ってはいけない

10章 価格の力

まだ完全には理解されていないプラセボの側面

それは、プラセボ現象において価格が演じる役割

高価な薬の方が安い薬よりよくなった気がするだろうか?

プラセボは暗示の力で働く

プラセボが効果を発揮するのは、人々が信じるからである

プラセボを働かせる予測は二つの仕組みで作られる

  1. 信念 薬や治療や世話をしてくれる人に対する信頼や確信である
  2. 条件付け 体は何度も経験すると期待を高めていき、さまざまな化学物質を放出して先々の心構えをさせるようになる

11章 わたしたちの品性について その1

  1. チャンスがあると、多くの正直な人がごまかしをする
  2. いったんごまかそうという気になったら、見つかる危険があることには左右されない

人々を正直にさせるには、なんらかの道徳基準に思いを巡らせるだけで十分

つまり、何らかの倫理思想水準から離れると不正直になる。しかし、誘惑に駆られている瞬間に道徳心を呼び起こされると、正直になる可能性が高くなる。

社会規範と市場規範が衝突すると、社会規範が消えて市場規範が残る

正直にも似たような教訓があたえられる

いったん職業倫理が低下すると、取り戻すのは容易ではない

12章 わたしたちの品性について その2

たいていの不正行為は現金から一歩離れたところで行われている

お金ではないものが絡んだ不正行為は行えるのに、お金を扱う時には不正がしにくいのはなぜか

機会が与えられれば、人は不正直になってしまう

奇妙なのは、わたしたちの大半がこうなるとは予想していないことである

13章 ビールと無料のランチ

人は時として、他人に何らかの印象を与えるために、消費行動から得られる快楽を犠牲にする。

ふつう経済学では、わたしたちは合理的であると考える

決断に役立つ情報を知っていて、選択肢の価値を計算することができ、選択による結果をなににも邪魔されずに評価できると想定している

だが、われわれが下す決断は、従来の経済理論が仮定するほど合理的でないどころか不合理である

しかし、その行動はでたらめでも無分別でもない。規則性があって予想することもできる

脳の基本的な配線のせいで、同じような失敗を何度も繰り返してしまう

経済学は、人がどのように行動すべきかではなく、実際にどのように行動するかに基づいているほうがはるかに理にかなっているのではないだろうか

目次

はじめに
1章 相対性の真相
なぜあらゆるものは-そうであってはならないものまで-相対的なのか
2章 需要と供給の誤謬
なぜ真珠の値段は-そしてあらゆるものの値段は-定まっていないのか
3章 ゼロコストのコスト
なぜ何も払わないのに払いすぎになるのか
4章 社会規範のコスト
なぜ楽しみでやっていたことが、報酬をもらったとたん楽しくなくなるのか
5章 性的興奮の影響
なぜ情熱はわたしたちが思っている以上に熱いのか
6章 先延ばしの問題と自制
なぜ自分のしたいことを自分にさせることができないのか
7章 高価な所有意識
なぜ自分の持っているものを過大評価するのか
8章 扉をあけておく
なぜ選択の自由のせいで本来の目的からそれてしまうのか
9章 予測の効果
なぜ心は予測したとおりのものを手に入れるのか
10章 価格の力
なぜ一セントのアスピリンにできないことが五〇セントのアスピリンならできるのか
11章 わたしたちの品性について その1
なぜわたしたちは不正直なのか、そして、それについて何ができるか
12章 わたしたちの品性について その2
なぜ現金を扱うときのほうが正直になるのか
13章 ビールと無料のランチ
行動経済学とは何か、そして、無料のランチはどこにあるのか
謝辞
共同研究者
訳者あとがき
参考文献
原注

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